単行本『ラブレター』(光文社、1996)が文庫化に伴って改題されたもの(新潮文庫、1999/角川文庫、2004)。いま手元にあるのは角川文庫。たぶん手紙がいちばん多いかと思うのだけれど、ほかにも交換ノートや授業中に回されるメモ、ラジオ番組への投稿、FAXなどなど、そういうものの文面だけで構成されているちょっと風変わりな小説。描かれているのは、主に主人公の八木悦子を中心とした4人の高校の同級生たち。時代的には1975年(このとき悦子たちは高校2年)から1995年まで進む。読んでいると、こっぱずかしくなるというか、けっこう苛々させられる小説です。よく言えば、カッコをつけていない小説というか。

この小説でもやっぱり、女の子(悦子)だけが受かって男の子(都築宏)のほうが落ちる、お約束のパターンが見られる。もともとそれほど深い付き合いだったようには書かれていないけれど、やっぱり気持ちのほうも離れていく(ただ、それだけでは終わらないところがこの小説の面白いところかもしれないけれど)。少し引用してみると、

 <It is getting colder and colder morning and evening. The leaves of the trees will soon turn red or yellow. (駿台・基本英文700選より)/宏くん、身体に気をつけて受験勉強、がんばってください。/湯河原にて。/都築宏さま/12・2 八木悦子>(p.108)

。『700選』(英語の参考書)が出てくる小説を初めて見たけれど、それはそれとして。↑浪人中に大学生になった元同級生からもらいたくない手紙(これはたぶん葉書)の最たるものである気が…。なんか、ちょっといらっとしませんか? 環境の変わり目が縁の変わり目、と言ってしまうと悲しいけれど、置かれた立場(社会的な身分)が変わってしまうと、たやすくわかり合えなくなってしまう、のである。(例えば、高3が高3に送った手紙――今ならメールとか、なら、上のように参考書の1節が引用されていても、それほどいらっとはしないような気が。)

関係がないけれど、悦子が高校のときに「旺文社の夏期スクーリング」(p.93)に参加したと言っていて、たぶん、ラ講(ラジオ講座)のスクーリングだと思うのだけれど、そういうものがあったとは! この小説を読んで初めて知りました。あと(これも関係がないけれど、受験アイテム的な話つながりで)、高校パートの舞台は静岡らしいのだけれど、例の(?)単語集が「デル単」ではなくて「シケ単」と呼ばれている。よく、関東(東日本)ではデル単で、関西(西日本)ではシケ単、みたいなことが言われるけれど、そういうのも実際のところどうなのだろうか(よくわからんです)。
 

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