毎日新聞社、1996。文庫も出ているけれど(複数の出版社から出ている模様)、手元にあるのはノベルス版(カッパ・ノベルス、1999)。※以下、最後のあたりのことについても書くつもりなので、くれぐれもネタバレには気をつけてください。

主人公の尾崎孝史――いちおう3人称で書かれているけれど、ほとんど1視点なので1人称小説と変わらない――は、高崎(群馬)から御茶ノ水にある予備校(2校)を受けるために泊りがけで東京へ。1校目を受けた日の夜、泊まっていたホテル(「平河町一番ホテル」)の火災に巻き込まれて、危ないところを時間移動の能力を持つ男(自称「平田」)に助けられる。それで、2.26事件(1936年)が起こるあたりへと。……あいかわらず内容をまとめるのが下手というか文章力がないというか、これくらいで妥協です(涙)。

90年代半ば(1994年)、高崎に住んでいればわざわざ遠出をしなくても、大手の予備校なら地方受験みたいなものもあると思うのだけれど、どうなのだろうか(御茶ノ水ならS台とか)。結局、最後のほうまで読むと、孝史くんは、1校目に受けた学校に受かっていて、数年前に従兄が住んでいたという神保町にある下宿を借りて暮らし始めるのだけれど、なんだろう、なんていうかこの小説、浪人生観みたいなものがひと昔前、な感じがちょっとする(東京の予備校といえば神田のへんみたいな)。そう、「捲土重来」(p.14、上段)なんて言葉を、90年代の若者がよく知っているよなぁ。

父親が大学を出ていなくて息子には、みたいなことは(少なくとも)小説ではよくあるかな。大学を出ていても有名なところではなく、会社内での出世競争にやぶれて息子には、みたいなケースもあるか(いずれにしても、父親が有名大学を強いる(?)ケースとしては、竹内真『風に桜の舞う道で』とか、遠藤周作『ただいま浪人』とか)。ちなみに、孝史くんはそれほど有名な大学をめざしている感じではない(であれば、わざわざ東京の予備校へ通わなくても地元の予備校で十分ではないか、とも思う)。

結局、非日常的な出来事を経由して成長する、成長小説みたいな感じなのだけれど、(あとで取りあげるつもりの、伊井直行『草のかんむり』や清水義範『バードケージ』などとは違って)タイムトラベルものであると、同じ時点あるいは近い時点に戻ってこれて、時間的なロスがなくて(少なくて)いいかもしれない。高校生なら3年、大学生ならたいてい4年(+α)あるけれど、浪人生は基本的に1年勝負だから。

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関係ないけれど、細かいところがけっこう気になる。例えば「国立の二次試験」(p.6、下段)というのは、「国立の後期試験」の間違いか。意味がわかるからから別にかまわないけれど。あと、「二十五日の夕刊」(p.106、上段)というのは「二十四日の夕刊」、「平成四年〜」(p.513、下段)は「平成六年〜」の間違いか。物語に関係する部分でも、もっとあちこちに辻褄が合わないところがありそうな予感が。気が向いたらもう1度読み直してみたい。それと、別に間違いとかではないけれど、高校の卒業式って3月1日とかが多いと思うのだけれど、3月4日に自宅に戻ったのでは、もう終わっちゃっているような。
 

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