周利重孝 『夏の扉』
2007年3月26日 読書
水曜社、2004。毎度のように書いていますが、今回はミステリーなので、いつも以上に※ネタバレにはご注意ください。最後のあたりについても触れるつもりです。ただ、あいかわらず内容を説明するのが得意ではないので(というか、得意な文章ジャンルなんてないけれど)、とりあえず帯の文章を引用させてもらうと、
<十九歳の夏、平穏だったぼくの日常に突然終止符が打たれた。親友の秀雄が、バイクとともに姿を消したのだ。残された謎のメールに導かれるように、ぼくと遙香は秀雄の跡を追った――。瑞々しい筆致で青春の恋と悩みを描きだした、新しいスタンダードの誕生!!>(帯より。改行はつめました)
という感じの物語です。舞台は海の近くで、自動車で東京まで2時間くらいの場所らしい。秀雄(早坂秀雄)の失踪の件以外には、彼がいなくなる1か月くらい前に、たまたま海で水死体として発見してしまった人(松本菜摘)についても調べていく。子どもを亡くした夫婦とか、刺青師とか詐欺師とか、長めの小説なので(?)あれこれと出てくる。
語り手兼主人公(森崎誠司)は、内面的なことをあまり語ってくれないうえに、人とちょっと距離をとるような性格らしく(会話の部分を読むとやや村上春樹っぽい)、いまいち好感が持てないというか、感情移入しながらは読みにくいかもしれない。19歳にしてはちょっとおっさんくさくもあるような。2度目の大学受験に失敗し、でも、来年受験するかどうかまだ決めていない、みたいな状態らしくて、ちゃんとした浪人生、とは言えないわけだけれど(ある意味では浪人生以上に社会という海で漂っている浪人かもしれないけれど)、人から身分などを尋ねられれば、
<「あなたは大学生?」/「いいえ」どう説明すればいいのか、迷った。自分の今の状態を正確に言い当てる言葉はないような気がする。「浪人です」/「時代劇みたいね」>(p.136)
というように「浪人」と答えるしかないわけで。ラーメン屋のような“海の家”のようなところ(『海乃家(うみのや)』)でアルバイトをしているのだから、「フリーター」と答えることもできたはずで、要するに無意識的にはやっぱり浪人生、という感じなのかもしれない。その証拠にあれこれと事件の真相がわかったあと、結局、受験生に戻るかして大学には行ったようである。よくある小説では、大学に行く意味が見出せずに漠然と浪人生をしているときに、何か非日常的な出来事が起こって、また現実に帰ってきて勉強に身が入るようになる、みたいなことが多いのだけれど、浪人以前な時点でのそんなような小説はちょっとめずらしいかな。ま、どちらも心理的には似たようなもので、表面的な違いにすぎないだろうけれど。
あと、過去のこともあまり語ってくれないので、例えば小さい頃から友だちという秀雄にしても、高校のときの「ほとんど唯一の女友だち」だという遙香(桐生遙香)にしても、かつてどういう友だち付き合いをしていたのか、がいまいちよくわからない。同じように(?)大学受験についても、どうして現役のときと1浪のときと不合格になったのか、がまったく語られていない。もちろんそんなことは本人にもわからないかもしれないけれど、少しくらい自己分析してくれてもよさそうなのに。
<受験に二度も失敗して、私は生きていく自信をなくしていた。かと言って、死ぬ勇気もなかった。私は生と死の狭間を漂っている状態だった。>(p.8)
<あの頃はまだ最初の受験に失敗したショック状態がずっと続いていた。ただ無色透明な時間をやりすごすだけで、自分がなにをしているのかに注意を払うこともなく、あらゆる出来事に対してなんの感情も持てなかった。>(p.79)
時間順は逆で、上が1浪のときの不合格後(「私」が使われているのは最初のあたりの回想場面だから)、下が現役のときの不合格後。下のほうはこのあと、女友だちの遙香と高校の卒業以来、1度も会っていなかった理由が語られる(ネタバレしてしまうけれど「ヤラセテクレ」と言ったらしい。泣きっ面に蜂の状態を自ら求めるというか、悲しいときには雨に打たれていたい、みたいな気持ち? 冬にこたつで食べるアイスは格別……それは違うか)。なんだろう、2度とも十分に勉強していて自信満々で入試に臨んだとかなのかな? やけにショックを受けちゃっているよね。いや、ショックを受けるのは当然だとして、頭の切り換えみたいなことが得意ではないのかも。だから2浪するかどうかもさっさと決められないのか。
森崎くんのプロフィールをもう少し。2度目の受験に失敗後、親元を離れてアパート(風呂はあるようなないような)で1人暮らしを始める。あとのほうを読むとわかるのだけれど、祖母が管理人をしている住人が老人ばかりのアパート。管理人の代理をすることで、家賃はタダ。朝はジョギング、昼間は飲食店の『海乃屋』でアルバイト。水死体を発見するまでは海でときどき素潜りをしていたらしい。健康的ざんすよね。最後のところを読むと、6年後に大学を卒業したと言っているから、たぶんもう1年浪人をしたか、大学で1年留年したか、のどちらか。
(誤植。1箇所、「名刺」が「名詞」になっている(p.116)。逆の変換ミスのほうがありそうだけど。)
<十九歳の夏、平穏だったぼくの日常に突然終止符が打たれた。親友の秀雄が、バイクとともに姿を消したのだ。残された謎のメールに導かれるように、ぼくと遙香は秀雄の跡を追った――。瑞々しい筆致で青春の恋と悩みを描きだした、新しいスタンダードの誕生!!>(帯より。改行はつめました)
という感じの物語です。舞台は海の近くで、自動車で東京まで2時間くらいの場所らしい。秀雄(早坂秀雄)の失踪の件以外には、彼がいなくなる1か月くらい前に、たまたま海で水死体として発見してしまった人(松本菜摘)についても調べていく。子どもを亡くした夫婦とか、刺青師とか詐欺師とか、長めの小説なので(?)あれこれと出てくる。
語り手兼主人公(森崎誠司)は、内面的なことをあまり語ってくれないうえに、人とちょっと距離をとるような性格らしく(会話の部分を読むとやや村上春樹っぽい)、いまいち好感が持てないというか、感情移入しながらは読みにくいかもしれない。19歳にしてはちょっとおっさんくさくもあるような。2度目の大学受験に失敗し、でも、来年受験するかどうかまだ決めていない、みたいな状態らしくて、ちゃんとした浪人生、とは言えないわけだけれど(ある意味では浪人生以上に社会という海で漂っている浪人かもしれないけれど)、人から身分などを尋ねられれば、
<「あなたは大学生?」/「いいえ」どう説明すればいいのか、迷った。自分の今の状態を正確に言い当てる言葉はないような気がする。「浪人です」/「時代劇みたいね」>(p.136)
というように「浪人」と答えるしかないわけで。ラーメン屋のような“海の家”のようなところ(『海乃家(うみのや)』)でアルバイトをしているのだから、「フリーター」と答えることもできたはずで、要するに無意識的にはやっぱり浪人生、という感じなのかもしれない。その証拠にあれこれと事件の真相がわかったあと、結局、受験生に戻るかして大学には行ったようである。よくある小説では、大学に行く意味が見出せずに漠然と浪人生をしているときに、何か非日常的な出来事が起こって、また現実に帰ってきて勉強に身が入るようになる、みたいなことが多いのだけれど、浪人以前な時点でのそんなような小説はちょっとめずらしいかな。ま、どちらも心理的には似たようなもので、表面的な違いにすぎないだろうけれど。
あと、過去のこともあまり語ってくれないので、例えば小さい頃から友だちという秀雄にしても、高校のときの「ほとんど唯一の女友だち」だという遙香(桐生遙香)にしても、かつてどういう友だち付き合いをしていたのか、がいまいちよくわからない。同じように(?)大学受験についても、どうして現役のときと1浪のときと不合格になったのか、がまったく語られていない。もちろんそんなことは本人にもわからないかもしれないけれど、少しくらい自己分析してくれてもよさそうなのに。
<受験に二度も失敗して、私は生きていく自信をなくしていた。かと言って、死ぬ勇気もなかった。私は生と死の狭間を漂っている状態だった。>(p.8)
<あの頃はまだ最初の受験に失敗したショック状態がずっと続いていた。ただ無色透明な時間をやりすごすだけで、自分がなにをしているのかに注意を払うこともなく、あらゆる出来事に対してなんの感情も持てなかった。>(p.79)
時間順は逆で、上が1浪のときの不合格後(「私」が使われているのは最初のあたりの回想場面だから)、下が現役のときの不合格後。下のほうはこのあと、女友だちの遙香と高校の卒業以来、1度も会っていなかった理由が語られる(ネタバレしてしまうけれど「ヤラセテクレ」と言ったらしい。泣きっ面に蜂の状態を自ら求めるというか、悲しいときには雨に打たれていたい、みたいな気持ち? 冬にこたつで食べるアイスは格別……それは違うか)。なんだろう、2度とも十分に勉強していて自信満々で入試に臨んだとかなのかな? やけにショックを受けちゃっているよね。いや、ショックを受けるのは当然だとして、頭の切り換えみたいなことが得意ではないのかも。だから2浪するかどうかもさっさと決められないのか。
森崎くんのプロフィールをもう少し。2度目の受験に失敗後、親元を離れてアパート(風呂はあるようなないような)で1人暮らしを始める。あとのほうを読むとわかるのだけれど、祖母が管理人をしている住人が老人ばかりのアパート。管理人の代理をすることで、家賃はタダ。朝はジョギング、昼間は飲食店の『海乃屋』でアルバイト。水死体を発見するまでは海でときどき素潜りをしていたらしい。健康的ざんすよね。最後のところを読むと、6年後に大学を卒業したと言っているから、たぶんもう1年浪人をしたか、大学で1年留年したか、のどちらか。
(誤植。1箇所、「名刺」が「名詞」になっている(p.116)。逆の変換ミスのほうがありそうだけど。)
コメント