よくあるタイプのアンソロジーというか、1人1篇ずつの、7名の作家が参加している短篇集、角田光代ほか『Teen Age』(双葉社、2004)、に収録されている最後の1篇。川上弘美というと『神様』とか、ちょっとへんてこな話、が多いみたいな印象があるかもしれないけれど、この話も、そんな路線のものかもしれない。「あたし」が知り合って仲良くなる一実ちゃんは、実はクローン人間、みたいな話。クローン生まれゆえの悩みみたいなものもあるのだけれど、そういうところが面白いのではなく(それも面白いけれど)、えーと、どこがどうとかはうまく言えないけれど、小説として面白いので、お薦めはお薦めです。語り口が幼い感じだから、青春小説としては……ちょっと読めそうで読めないかも。でも、読めなそうで読めるかもしれない、わからないけれど。ただ、生きるのがめんどくさい、何かすごいこと(っぽいこと)がしたい、というのは、若い人やかつて若かった人なら共有できる悩みではないか、と思う。

予備校で顔だけを知っていて、学校外で声を掛けられたりして、友達になるみたいな話はよくあるのだけれど(受験生のせいか、場所は図書館が多いかな。宮本輝「星々の悲しみ」、堀田あけみ『ボクの憂鬱 彼女の思惑』など)、この小説では、牛丼屋へ入ろうとしたときに呼びとめられてなのがちょっと面白い。建物(校舎)についてもちょっと面白いというか、やや不思議なところがあって(川上弘美だから許せるけれど)、「駅のそばの、大きな新しいビルの五階から八階までを占める、できたての予備校」(p.243)……って、1階から4階まではどうなっているやら、とか(笑)。あ、関係ないけれど、小説に出てくる予備校ってなぜか8階建てが多い気がする。駅の近くのビルってたいていそれくらいの高さがあるのか、なんなのか。あと、「あたし」(律ちゃん)たちは、文系の午前コースに通っているらしいのだけれど、なぜなのか、文系クラスの机のほうが理系の机よりも狭いらしい(p.249のへん)。

受験勉強に関しては、「あたし」は勉強しているのかしていないのか、とりあえず、午前中はたいてい予備校へは通っているのではないか、と思われる。ぼんやりと授業を聴いているにしても。常識で考えて、お互いの家を行き来するほどの友達ができてしまうと、やっぱりおしゃべりとかに時間をとられてしまいそう。来年は合格できるのかな。作中の時間は、春から秋ぐらいまで進むのだけれど、「秋になってあたしの合格率は五十パーセントまで回復した(第四志望だけれど)」(p.263)と言っていて、大丈夫なのか、この人(笑)。第1志望のところを受けて受かる気はあるのかないのか。(ただ、このへんも、勉強しろ、みたいなことは思わず、川上弘美だからまぁいいか、と思えてしまう。)

[追記]のち、単著『天頂より少し下って』(小学館、2011.5/小学館文庫、2014.7)に収録される。7篇中の1篇目。
[追記2]『Teen Age』の文庫版は双葉文庫、2007.11。その前に初出は『小説推理』2001年6月号らしい。
 

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