『少年と少女のポルカ』(ベネッセコーポレーション、1996/講談社文庫、2000)所収。いちおう3人称小説なのだけれど、主人公のホンダハルコからの1視点で、ほとんど1人称小説のようなもの。語りは、安定している饒舌系というか。衒学的というよりも雑学的な感じで、小説や漫画、映画に音楽、社会的な出来事とか、わかる人にはわかることがたくさん出てくる(友達の「委員長」の本の読み方など雑食的?)。知識がないので私には何を踏まえているのやら、疎外感を感じることがしばしば。あと、そういう知識みたいなものもそうだけれど、何かを言い出しておいて、適当な理由をつけてすぐに引っ込めるというか、切り捨てていく、みたいなことがかなり多い。お喋りの基本はどうでもいい話だから(?)それが“饒舌”の推進力の1つになっているのかなんなのか。ストーリー自体は、恋愛小説みたいなものとして読むと別にたいしたこともなく、高校のときの同級生から電話が掛かってきて、付き合い始めてこちらもちょっとその気になったら、やっぱりごめん、みたいに振られてしまう、というような話(たぶん)。

ハルコは、予備校の午後部に「二勤一休」のペースで通っている。要するに多くの浪人生小説と同様、あまり勉強はしていないわけだけれど、でも、この小説、予備校や予備校生についてはわりと書かれているほうかもしれない。それがちょっと具体的であるというか、個人的にはデジャ・ヴュなこともいくつかあって。例えば、教室には「四人掛けの机と長椅子が三列×十一個」(文庫、p.137)とか。あの長椅子って隣との区切れ目がないし、窮屈でいやだったよなぁ(遠い目)。隣のクラスというか友達(「委員長」)がいるクラスと自分とのクラスとの時間割がおおむねパラレルになっている、とか。2時間目の授業はどうでもいいけれど、1時間目の授業はどうでもよくない、でも寝坊して1時間目に間に合わなかった、みたいな場合に隣のクラスで同じ授業を受けたことがあります、私(どうでもいい思い出)。予備校生については、ボーリング場が俺の校舎だ、みたいなことを言っている元同級生がいて、そういえば私も(思い出しばなし、すみません)予備校に通っているとき、予備校ではなくて予備校の近くのパチンコ屋に通っている高校のときの同級生がいたのだけれど、彼は結局、大学には入れたのだろうか。

1991年の話、描かれているのは予備校の初日(4月最初の月曜日)から5月の連休があけて少し経つくらいまで。志望大学というかは、たぶん私立文系で、現役のときには「七回半」落ちている(「半」はJ智の学課までは合格とのこと)。現役で8つくらい受けるのはふつうかな、それとも多い?(小説ではちょっと多いような。宮部みゆき『蒲生邸事件』では「五校六学部」)。予備校は、坂の上にあってどうのこうのと場所が書かれているので、東京にある程度詳しい人なら特定できるのでは?(私には無理です)。授業は日本史の授業を受けている場面がある、

 <現代史担当の講師は、蚊の鳴くような声で不似合いな日本改造の話をしていた。まったく吸引力のない下手くそな授業で、来シーズンの契約はなしだな、とオーナーでもないくせにハルコが勝手に見限った講師だった。北一輝のことなら手塚治虫の漫画で読むからいいや、とハルコは高三のときクラスの誰かがそう言ってたのを思い出して真似た。>(同、p.135)

小さな声、というのは確かに生徒とするとちょっと嫌かな。というか、マイクはないのか。不似合いと言われても、試験に出るなら日本改造の話だろうかなんだろうがしないといけない。講師の「吸引力のなさ」(魅力に欠けるの)は何に由来するのだろうか(うーん)。「来シーズン」とか「オーナー」とかって、もしかして野球の比喩? ……それはいいとして。浪人生として(高校生としてではなく)予備校に通うと、1週間で都合何人くらいの講師の授業を受けることになるの? 例えば仮に20人くらいであるとして、何人くらい“当たり”がいればいいのか。5人(4分の1、25%)いれば多いほうかも。でも、同じく5人くらいの“はずれ”が自分の苦手な科目・分野に集中していたら悲惨だよね。まぁ夏期講習とかでどうにかすればいいのかも。日本史は選択していなかったので知らないけれど、そういえば、自分が高校のときには、井上靖の小説『蒼き狼』を読んで、しばらくの間、頭の中がモンゴル、モンゴルみたいなことになっていたけれど。

以上、あまりちゃんとした紹介ができなかったけれど、予備校生小説としてはお薦めの1篇です。浪人生小説のアンソロジーが編まれたら(編まれるわけないだろうけど)、ぜひ入れてもらいたい1作だと思う。

(追記。椅子に対する不満はよくあるようだ。例えば、どちらも主人公は高校生だけれど、中沢けい「海を感じる時」や川西蘭「春一番が吹くまで」にはちらっと出てくる。)
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索