古本屋でこの短篇が収録されている文庫本(複数あるようだ)をけっこう長いこと探していたのだけれど、結局見つからず。それで、近くの図書館に置かれていたのが、単行本(ハードカバー)の『アルファルファ作戦』(中央公論社、1976)だけだったので、いま手元にあるのはそれです。

現役受験生の「おれ」が、予備校生の姉(由井雪子)とその姉にふられた形になっている大学生(松平伊豆夫)をけしかけて、予備校対大学の喧嘩というか“戦争”を起こさせる、というような話。ドタバタな感じだし、シュールな感じでもある。――お薦めかと訊かれれば、…うーん、どうかな、個人的にはあまりお薦めしないです。ドンパチ、がどうも好きになれない。

後ろの「あとがき」に、

 <[(引用注)昭和四十二年の]『SFマガジン』十月号に書いた「慶安大変記」は、学研の学習誌に書いたものを書きなおした作品である。>(p.253)

とある。この「学研の学習誌」というのは『高○コース』かな。調べればわかるかもしれないけれど、語り手が高校3年生だから、少なくとも『中○コース』ではないような気が。というか、どれくらい書き直されているかわからないけれど、この短篇、中高生向けのお話という感じはちょっとしない、少なくとも「教育」的な話ではないような気が。勉強の息抜きとしての読みものとしても、ちょっとどうなのかな、と思う。

あと、自分の年齢的な問題があって時代背景がよくわからない(年齢のせいではなく教養がないだけか)。作中の年代は、いちおう昭和52年(1977年)らしいのだけれど(p.80)、書かれたのは、昭和42年(1967年)とのことで、その両方の年くらいの学生運動ってどんな感じだったのだろうか(1977年ってもうかなり下火でした?)。学生運動だけを考えても駄目か、社会的な事件とか、ほかにもいろいろとあっただろうし。

そう、時代的なことも関係するかもしれないけれど、女性差別的な発言が多い、この小説。姉・弟のきょうだいで、弟のほうではなく、姉のほうが浪人生という設定はちょっと珍しいかもしれないけれど、(逆に?)それはそういう女性差別的なことに由来するのかもしれない。(最後のあたり、姉については、なんだこのオチは? みたいなことも思う。)

最後に。どうでもいいと言えばどうでもいいことなんだけれど、予備校の規模が気になる。小説の冒頭は、

 <おれの家の隣に、大きな予備校ができた。『慶安予備校』という予備校で、鉄筋コンクリート八階建、建築面積千五百八十平方メートルという馬鹿でかい予備校だ。>(p.76)

となっている。これが姉の通っている予備校だけれども、それはいいとして。朝・昼・夕・夜の四部制で、学生は10万人もいるらしい。――ちょっと多すぎて収容しきれないような気がする。(平均すると10万÷4÷8=3125。各階に、例えば200人入る教室なら、16教室も必要になってしまう。というか、1580?ってどのくらい?)

[追記]その後、文庫版『アルファルファ作戦』(中公文庫)は手に入ったのだけれど、上の作品は『自選短篇集1ドタバタ篇 近所迷惑』(徳間文庫、2002)にも収録されていて、その後ろに付いている「自作解説」(というか日下三蔵氏による作者へのインタビュー)によれば、初出は「慶安の変始末記」というタイトルで『高三コース』1966年12月号であるようだ。作者は当時、Yゼミ近くの森ビルに住んでいたらしい。
 

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