幻冬舎、2004。話が長いから3割くらい削って欲しい、この小説。※以下、ネタバレ注意です。「俺」(宮本剛史)は1人で興信所を開いている私立探偵。最初のほうは、依頼されて大学入試センター試験でのカンニング作戦、後半は復讐っぽい感じで、ヤ○ザとも関係がある知的でクールな(?)イカサマ師との巨額ポーカー対決。どちらも小型カメラを使って外部モニターしながら、骨伝導式のマイクで当人に指示を出す遠隔的な方法。で、そうした機器の説明も、ポーカーのルールの説明もくだぐだしているし、実際の試験もポーカーも実況中継的な逐一な感じで、読んでいてうっとおしいし。もっと手に汗握る感じならわかるけれど、それほどでもないし。

芸術の才能はあるけれど、学科がダメダメな東京芸大志望の浪人生(2浪)の西村昌史は、主人公と、その協力者というか親友の忘れ形見である美人東大生(藤井加奈)の2人から、ことあるごとに、バカ、バカと言われながら顔を殴られたり、お尻を蹴りあげられたりする……。かわいそうといえばかわいそうだけれど、ちょっといらいらさせられるのは、繰り返し(ワン・パターン)のせいかもしれない。殴られる回数が多いのは、もしかしたら作者の文章力のなせるわざではないか、と疑ってしまう。それ以外にも、どういう効果を出したいのかよくわからない、変な(?)繰り返しが多いし。受験するのは西村息子で、ポーカーをするは元区議の西村父親、みたいな大枠的なことや、探偵さんの趣味が紅茶で、趣味ではないかもしれないけれど、対決相手のや○ざに近い人がこだわっているがワイン、という細かいことも。あと、そんなこと以前に主人公たちコンビに対してぜんぜん魅力が感じられない(のはどうして?)。あ、でも、ちょっとユーモアがなくもないか、例えば、

 <「剛史の頃は、センター試験なんてなかったでしょうに」/年寄りを哀れむような口調だった。あったさ、と俺は安っぽいプラスティックのテーブルを叩いた。/「ただ、共通一次って言ってたような気がする」/鳥がさえずるような声で加奈が笑った。>(p.50)

最初読んだときはちょっと面白いと思ったのだけれど、↑いま読み返してみたら別にそれほどでもないな。

描かれているのは12月くらいから。昌史(まさふみ)くんが通っている予備校は、代々木にある「川田塾美術アカデミー研究所」(Yゼミ+K塾?)。都内最大の美術予備校らしい。センター試験はけっこう具体的で、平成16年度(2004年度)のことらしい。入試会場は一橋大学で、英・国・日本史の3科目を受験する。そう、入試問題ってA4サイズだっけ? ……そこまで細かいことはいいか。かなりネタバレしてしまうけれど、カンニングは結局、失敗することとなって、大学進学は諦めてしまう。本当に才能があればもっと別の道がありそうな気がするけれど、とりあえずテレビの製作会社のAD(いちおう美術スタッフ)として働き始めている。

ほかに受験関係のことでは、主人公が昔のときのことについてちょっと触れているくだりで、“出る単”を暗記していたと言っている(p.32)。37歳だから1967年くらい生まれ? まだ『試験にでる英単語』が下火になっていない世代かもしれない。

(文句ばかりになってしまうけれど、名前が意外とまぎらわしい。主人公の剛史(たけし)も「つよし」とも読めそうだし、人物は登場してこないけれど、いとこが高志(たかし)だったりするし、「たけし」「たかし」のせいか、浪人生の昌史(まさふみ)をどうも「まさし」と読んでしまうし。そんなやつは私だけか。でも、端役、昌史くんの予備校の先生の名前が「沢口」で、対決する敵の本当の名前も「沢口」というのはどうなのか? 確かにそういう微妙な偶然があったほうが現実的かもしれないけれど。)

[追記]文庫は幻冬舎文庫、2007。
 

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