講談社、2006。なんていうか、寄木細工な感じというか、全体として、ちょっとちぐはぐな印象を受ける、かな。新鮮といえば新鮮に感じるけれど、個人的にはこういう昔を舞台にした推理小説(のようなもの)をあまり読んだことがないので、たんに目くらましにあっている気がしなくもない。5段階評価ならちょっと厳しめに…2くらいでいいですか? 「いいですか?」と言われても困るか(汗)。※以下、いちおう推理小説なので(いちおう…じゃないですね、乱歩賞受賞作)、いつも以上にネタバレにはご注意ください

あまり関係ないけれど、テレビ朝日の深夜の短い番組で、坂を一気にかけのぼる、みたいなのがあって、2、3回見たことがあるのだけれど、なんていうか、あれは本当にどう見ればいいのか、首をひねってしまう(悩みませんか?)。たくさんあるらしい東京の坂にも興味がないし、アイドルの女の子が走ったりぜえぜえしたりする姿にも萌えないし。誰か萌えポイントがどこにあるのか教えて欲しい。というか、とりあえず東京のちゃんとした地図が欲しいな、古いのと現在のと1冊ずつ。自分が暮らしている国の首都なのに、地名があまりにぱっぱらぱー、です。

この小説を読んだきっかけは、と言えば、『ダ・ヴィンチ』(雑誌)か何かに主人公が予備校生、みたいなことが書かれていたからなのだけれど、読んでみたら予備校生は予備校生でも、浪人生ではなかったです、現役受験生。主人公の内村実之は、一高(=第一高等学校、いまで言えば東大みたいなもの)を受験するつもりなのだけれど、その試験が7月にあるんだよね。3月に中学(もちろん旧制)を卒業すると、奈良県の田舎から上京して予備校に通い始める。ただ、お父さんが東京で失踪していたり、(元)帝大生のお兄さんが謎の言葉(「三年坂」に絡む)を残してくれたりで、それらを調べる目的もあるから、純粋に勉強のために上京したのではなく、そういう意味ではちょっとふつうの(?)受験生とは違うかもしれない。時代的には(明治30年代)、立身出世のため、勉強意欲まんまん、みたいな上京の理由のほうがわかりやすいかもしれないけれど、そうではない感じである。そう、上京する前に肉体労働のアルバイトでお金を貯めているし、上京してからもお金の心配が出てくると、大変なアルバイトを始めるしで、いちおう「苦学生」という印象かもしれない。で、ネタバレしてしまうというか、だいぶ先を読まないとわからないことだけれど、結局、受験には失敗して(あまり描かれてはいないけれど)浪人生活に突入している。あ、東京でのアルバイトは試験が終わってから始めるのか。で、そのまま浪人時にもしている(以前、このブログでこの小説について間違ったことを書いてしまった気がする)。

ところで、いま予備校に1年通うとするといくらくらいかかるの? 自分のときのことが思い出せない(でも、どちらかと言えば貧乏な家、両親にとても迷惑をかけたです)。下宿代や入試費用など、もろもろを含めていくらくらいかかる、みたいなことを計算しなくてはいけないから、という理由もあるだろうけれど、小説に具体的に金額が書けてしまえるのは、昔(100年以上も前)の話で、生々しくならないからかもしれない。ほぼ同時代を舞台とした小説で、予備校代が書かれた小説は見たことがない気がする。探せばあるかもしれないけれど。(ほとんど読んでいないし、大学受験のための予備校ではないけれど、深沢美潮『フォーチュン・クエスト外伝2 パステル、予備校に通う』という小説では、<予備校に通うために必要なお金っていうのが、一万二千G。>とのこと。仮に現在の話であるにしても、こういう場合(よくわからないけれど「G」)も生々しくないのかもしれない。)

受験生小説としては――上で書いたようにあまり浪人生小説ではないのだけれど、どのあたりが読みどころだろうね…。実之くんが上京して受験するのが、19世紀最後の年、1900年(明治33年)なのだけれど、それくらいの年代の受験事情が知りたければ、本の後ろのほうに挙げられている参考文献のいくつかを読めばことが足りるような気もするし。でも、一般的に、小説のほうが流れ(物語)があったり、人を中心として書かれていたりするので、そちらのほうが読みものとしては面白いかとは思う。ちなみに、1900年というのは、久米正雄の「受験生の手記」の作中年よりも、たぶん10数年前。大学生小説、夏目漱石の『三四郎』が新聞に連載された年(1908年)よりも、10年弱前。(個人的には、清水義範が『春高楼の』という大学生小説を書いていて、それもお薦め。主人公が1900年に東京帝大に入学するあたりから話が始まる。大学生のほうが余裕があるせいか、受験生小説な『三年坂 火の夢』よりも、社会的な背景や風俗などがわかりやすくなっているので、併読してもいいかもしれない。)当然のことかもしれないけれど、下宿を探したり、予備校を選択したりするのは、いまよりもちょっと大変な感じである。事前情報がないので失敗してしまったり、と。現在のほうが逆に情報量が多すぎて、どれが自分にとってベストなのかがわからない、みたいなことがあるかもしれないけれど、それはまぁ嬉しい悲鳴みたいなものだから(?)。

同じ予備校の友達に誘われてほかの予備校の授業を「潜り」で受ける場面があるのだけれど、それは初めて読んだかな、小説で。実之くんは金銭的な都合で「新世紀学院」という予備校を選んで通っているのだけれど、その「潜り」で受けた予備校「開明学校」の授業の先生が、もう1人の主人公(?)である鍍金先生(高嶋鍍金)。一方的にだけれど、2人の最初の接点というか、物語的にはそんな感じ。――それはいいけれど、神田のあたりで予備校が複数あればそういうことにもなるよね、どこどこの何々先生の授業がわかりやすい、みたいな噂。じゃあ受けてみようか、みたいな。そういえば、関係ないけれど、その鍍金先生(英語講師)の言葉のなかで、「間投詞」が「インタージャクション」(p.68)になっている。敢えて書いているのかな? interjectionをいまカタカナで書くなら「インタージェクション」だよね。坪内逍遥の『当世書生気質』なんてもっと変な(?)ことになっていそうだし、どうってことないかもしれないけれど。

[追記]その後、文庫化。講談社文庫、2009。
 

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