講談社、1979/講談社文庫、1985。古本屋(ブックオフを含む)で文庫本が手に入らなくて、単行本を図書館で借りてきて読みました。性的な意味合いを含んでいそうなタイトルのわりに、なんていうか、恋愛的なこととかも含めて、全体的に淡白な感じの青春ミステリーという感じ、かな。※以下、毎度毎度のネタバレ注意です。

終戦の翌年(ということは1946年?)、季節は暑めの初夏。主人公の伊波弘道(18歳)はあるきっかけから、パン○ンの女の子たちと知り合い、池袋の闇市に出入りしている。物語は、その女の子たちの世話役である京子姉さん(井出京子)が殺されたことに始まるのだけれど、闇市という、いままでどこで何をしていたのか、来歴がわからない(もちろんお互いに穿鑿もしない)人たちが集まっている場所を舞台にして、でも、けっこうオーソドックスな殺人事件(とその解決編)が展開されている、といった感じ。――浪人生活よりも、闇市で扱われている商品とかに詳しくなりそうな小説だけれど、いちおう浪人生に関係しそうなことについて、以下少々。

「二浪ということになるのだろうか……」(p.130、上段)と書かれているけれど、考えようによっては1浪という感じかもしれない。弘道は、旅順(中国)でゆくえ知れずの(元)軍医のお父さんの影響からか、医者志望。中学4年のときには、戦時中の非常措置で第一次(2段階なのかな)は内申書審査だけだったらしいけれど、受けたのはすべて医科大学の予科で、ぜんぶに落ちたらしい。あ、そうか、この人は中学は5年まで通って卒業したのかな、それがわからない。当時、中学4年で受験に失敗したら、中学校にはもう通わずに、そのまま浪人しちゃってもよかったのかな?(入試制度がさっぱりわかっていない自分…)。それで、翌年(作中では今年にあたる)、第一次には学科試験が復活していて、でも、準備不足、勉強不足のために(?)また失敗したらしい。中学では「クラス中の注目を集めていた主席生徒」(p.130、上段)だったらしく、別に勉強ができないというわけでもないらしい。――それはともかく、もし中学5年まで通っていれば1浪という感じかもしれない。通っていなくても、現役受験が内申書だけで門前払いでは、それほど受験した気分にもならなかったのではないか(そんなこともないか)。

弘道は、華族の生まれというよりも、性格的な問題かと思うけれど(でも性格は環境から作られるのか――わからないけれど)、弘道くんは(保田梨枝の言うとおり)おっとりしているというか、余裕のある感じである。受験生にありがちな将来の不安とかはないのかな、この人。そういうことについては、ぜんぜん書かれていない。目白(下落合)にある家は空襲で焼けてしまって、庭にあった植木の道具小屋を改築して、そこにお母さんと2人で住んでいるらしい。父親はゆくえ知れずだし、経済的にもけっして楽ではないらしいけれど、お母さんはのんびりしたものらしい(息子の性格はこの母親に似たのかな)。家には勉強スペースがほとんどないらしく「上野図書館」へ通っている。予備校へはたぶん通っていない(いわゆる自宅浪人生?)。といっても、誘惑に負けて(?)池袋で電車を降りてしまうことも多く、あまり勉強をしていない模様。――勝手なイメージで、終戦直後の受験生はみんな必死になって勉強していたはず、みたいに思っていたけれど、どうもそんなこともないらしい。

 <もう空襲のサイレンも鳴らない。高空に光るB―29の編隊や、その爆音におびやかされることもない。こうして怠けていても、人びとの非難の目が浴びせられているのではないかと、気にすることもない。>(p.81、下段)

平和ぼけとはいかないまでも、ほっとしちゃっている感じである。ただ、戦争ではなく、それ以外の殺人によって顔見知りの人たちが殺されて、犯人も知っている人だったりして(要するに非日常的な出来事を経由して)、たぶん、この主人公は秋以降、ちゃんと勉強するようになった(=日常回帰した)のではないか、と思う。浪人生が簡単に戻れる場所なんて、勉強、くらいしかない(?)。
 

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