講談社文庫、1997。『パソコン通信殺人事件』というノベルス版(講談社ノベルス、1990)が改題されて、大幅に加筆修正されたものらしい。推理小説としてはちょっとどうなのかな、と思うけれど(警察の捜査能力ってゼロ?)、浪人生小説(そんなジャンルはないけれど)としてはけっこう面白いかもしれない。面白いというか、心理状態などが書かれていてわりと興味深い。※以下、毎度すみません、ネタバレにはご注意ください。

 <一本の線だけで結ばれている、宙に浮かんだような若者たち。深夜のパソコン通信に嵌る小田切薫の周りで次々殺人事件が起こる。それぞれの道を歩む高校の同級生たちは、友情と嫉妬が複雑に絡み合い……。オンライン社会の若者の心の揺れを描く、直木賞作家の傑作ミステリー。(略)>(文庫カバー)

「ネカマ」と言えば早いのかな。最初、名前(ハンドルネーム)から性別を誤解されて、そのまま訂正せずに女性のふりをし続けているらしい主人公は、夜な夜な「ステイション」という場所へアクセスして、ちやほやされているというか、たくさんの人との会話(チャット)を楽しんでいる。どうでもいいことだけれど、「KAHORU姫」というと、バレーボールの菅山選手を思い出してしまうな(でも、Hが多いか)。

薫くんは3浪生で、20歳。主人公を浪人生にしたのは、浪人生=何者でもない、まだ何者にもなっていない、みたいなイメージからなのかな。何者かになりやすい、なりたいと思っている、といった感じ…? 冒頭が、女子高校生がトイレで着替えて化粧をしている場面なのだけれど、ほかの人(キャラクター)を演じるみたいなことがテーマの小説かと思ったら、そうでもないような…。でも、まったくそうでもないこともないのか(わからない)。その高校生たち(2人)が、第1の殺人というか刺されて倒れる男性を目撃するのだけれど、その場所が新宿駅。オンラインの「ステイション」と現実のステイション(駅)、という対比なのだろうけれど、エンタメ系の小説でこういうことをやられると、ちょっとわざとらしく感じる。(あとから振り返ってみると、1つ歳下の幼なじみの女の子の名前が「まこと」というのも、ちょっと意図的な気が。)

ネタバレしてしまうけれど、新宿駅を変装して歩いている場面があって(オン/オフ的に象徴的?)、文体は1人称饒舌体とかではないけれど、もう1人の薫くんを思い出す人も多いかもしれない。以前にも書いたことがある気がする、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』の「僕」(庄司薫)は、本当に浪人生なのか? という疑問が自分の中で再燃してしまう。シリーズのぜんぶ(4冊)を読んでいないのでわからないのだけれど(ちゃんと読めばいいのかもしれないけれど)、とりあえず1作目の『赤頭巾ちゃん〜』の段階では違うよねぇ、むしろ高校3年生。薫くん(薫クン)のことを「永遠の浪人生」と呼びたくなる気持ちは、なんとなくわかるけれど、その場合の「浪人生」という言葉は、少なくとも常識的なそれとはちょっと違っている、ことには注意したい。――関係ない話はいいとして。

3浪ということもあるだろうけれど、この小説は、かなり浪人、浪人と言っていて、浪人生小説としては貴重な1冊(サンプル)であるような気がする。「浪人(生)」という言葉にくっ付いている修飾語を分類するだけでも、ちょっと面白いかも(やらないけれど)。ただでも、なんていうか、「勉強しなければならない」というオブセッション(強迫観念)であれば、理解しやすいとは思うのだけれど(中高生の定期テスト前でも同じこと?)、“浪人生アイデンティティ”が高いというか(それならたいていの浪人生がそう言えるか。さらに3浪ともなると?)「浪人生」をスティグマ(烙印)として抱えてしまうのかなんなのか、自分が浪人生であることを常に意識しているような状態、というのはどうなのかな、ちょっと理解しがたい? 何かにつけてそれを浪人(であること)に結び付けている。少なくとも浪人したことがない人には、わかるようなわからないような? ←自分でも何が言いたいのかわからないけれど(汗)。でも、高校生や大学生が、何かにつけて自分が高校生や大学生であることを、意識しているかといえばそうではないと思う。もちろん人によるだろうけれど。

でも、浪人生である自分を卑下したり、自嘲したり、とか、そういうマイナスな利用(?)だけでなく、甘えというか言い訳としても使えるらしい、

 <「俺、今日の予定をこなさなきゃならないんだよ」/「あ、そうか――。ごめんね、大変な時に」/まことは急に表情をくもらせて、次の言葉を探しているらしかった。水戸黄門の印籠みたいだ。浪人生は勉強という言葉を口にすれば大抵のことは許されるらしい。>(p.66)

病気というか仮病みたいな感じ? ちょっと違うか。「烙印」ではなく「印籠」になっている。

ほかに読みどころとしては(たくさんあるのだけれど)、例えば母親のことや大学生になっている高校のときからの友達たち(2人は現役で、1人は2浪して大学生)のことをどう見ているのか、とか。あと、これも詳しいことは省略してしまうけれど、「3浪ともなれば」(?)勉強は夏が過ぎてからでいいらしいし(要するにしていない)、予備校もほとんど通わなくていいらしい。描かれているのは、5月から9月(10月?)まで、最後の「エピローグ」で時間が飛ぶのでわかるのだけれど、結局、翌年「地方の医大」に受かったらしい。個人的には、もう1年くらい浪人させてあげてほしかったかな。2浪のときに志望を文系に変えていて、また理系に戻して、それで(地方のであれ)医学部に受かるかな? 人間って覚えたことを忘れる動物ですよ? 秋から勉強を始めても、センター試験まで3ヶ月くらいしかない。よほど記憶力がいいのか、集中力があるのか。事件に巻き込まれて成長、みたいなことはわかるけれど、ちょっとお後の都合がよろしい感じである。
 

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