中央公論新社、2001。これはとてもお薦めです。個人的には今まで読んだことがある主人公が予備校生の長篇小説の中で(ってそれほど読んでいないけれど)清水義範の『学問ノススメ』に次ぐベスト2かな、今のところ。でも、長篇小説といっても、主人公(「僕」)が浪人生なのは半分だけ。2000年の話と1990年の話が交互に進行していく形で書かれた小説で、1990年のほうが浪人生パート。予備校の、特待生向けに作られた寮に入っている生徒たちが描かれた、青春予備校生群像という感じの話。

寮(「桜花寮」)は、1階が食堂とか寮生向けの特別授業用の教室とかになっていて、2階と3階にそれぞれ5部屋、計10人の生徒が入寮している。「僕」(アキラ=小泉晶)と特に仲がいいのは、リュータ(神山流太)とヨージ(甲斐陽司)の2人なのだけれど、10人の浪人生を描き分けているのは、ちょっとすごいと思う(『学問ノススメ』よりも多いかな)。いちおう2階の人たちが早稲田大学志望で、3階の人たちが東京大学志望になっているのだけれど、私のような三流大卒な人が読んでも(?)嫌味がない感じというか、主人公は聞き上手ないい人だし、全体的に悪意がない小説かもしれない。基本的に、肩の力が抜けた(?)明るい小説です。

浪人生小説のつねで、予備校の授業はさぼったり寮も抜け出したり、あと、煙草は吸っていたりするけれど、アキラたち3人は(きっかけはどうあれ)早朝ランニングをしたりで、健康的な感じ。主人公のアキラくんは、とりあえず早大(の教育)志望ということにしていたのだけれど、悩んだりした結果、本当にやりたいこと、進みたい方向が見つかって――ちょっと話がうますぎる(都合がよすぎる)気もするけれど、でも、そういうところもよいのかもしれない。1年間が描かれているので、大学の合否についてもちゃんと書かれている。

書き忘れたかな、予備校は、高田馬場にある「山の手学院」とのこと。実在していないと思うけれど、とてもありそうな名前? 10人の出身地は、茨城や栃木、長野、あと秋田とか、東京より北が多いかな。あれ、アキラの出身はどこだっけ?(読み直さないとわからないな、高校のときは房総=千葉だっけ?)。そもそも1浪向けの寮らしく、全員が1浪。そう、予備校生でも雀荘で学割がきく、みたいなことが書かれていたけれど、自分も遠くの大学を受験しに行くときに、予備校で学割(学割違い?)を発行してもらった記憶がある。距離にもよるけれど、ちょっとは安くなるよね。

10年後の2000年パートのほうは、リュータが海外で亡くなったという噂が耳に入って、その真相を確かめる、みたいな話。アキラは、かつての寮生たちに連絡を取って、会ったり、電話で話したりする。要するに、一同に会さないけれど、同窓会的な感じになっている。これもやっぱり、10人全員のその後が書かれている。――そういう意味で、浪人生にもお薦めな小説かもしれない。自分のその後(10年後)はどうなっているのか、とか多少参考にできそうな感じで。ただ、「懐かしい」という感じで書かれているから、浪人生が読んでも懐かしく思うかもしれない。というか、懐かしく感じるのは、私がいい歳だからなのかな。――いずれにしても、お薦めな小説です。
 

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