集英社、1994/集英社文庫、1996。この小説はベストセラーというかロングセラーというかで、最近映画化もされているので、私が感想を書く必要もないと思う(検索すればざくざく出てくると思う)けれど、いちおう感想です。※毎度毎度すみません、以下ネタバレ注意です。

 <そのひとの横顔はあまりにも清冽で、凛としたたたずまいに満ちていた。19歳の予備校生の“僕”は、8歳年上の精神科医にひと目惚れ。高校時代のガールフレンドの夏姫に後ろめたい気持ちはあったが、“僕”の心はもう誰にも止められない。第6回「小説すばる」新人賞受賞作品。みずみずしい感性で描かれた純愛小説として選考委員も絶賛した大型新人のデビュー作。>(文庫カバーより。)

まだ春が浅い時期、美大2校(私立)とふつうの大学1校にふられて、そういう意味でも春が来ていないサクラチルな状態にある「僕」こと、一本槍歩太が、どんよりとした満員電車に乗って予備校の手続きをしに行こうとしていると、途中で停まった駅のホームから(桃色とかではなく)色のカーディガンを着た人が乗ろうとしてきて。歩太くんは彼女が乗れるスペースを作ってあげる。近づいた彼女の髪からは「ほころびかけたのつぼみのような」匂いがし、彼女の耳たぶ+ピアスは「の花びらに水のしずくがのっているみたいに見える」。――ひと目惚れとは一瞬にして頭の中に“お花”が咲いてしまうことなのか、なんなのか。というか日本人たるもの、春といえばやっぱり桜なのか(あー)。極めつけはその女性の名前が――あとからわかるのだけれど、なんと春妃(はるひ)! よくわからないけれど、要するに、大学不合格(将来不透明?)&スーツ姿ばかりの灰色電車に乗っていたところ、「僕」の中にサクラが咲いて、春(しかもお妃?)がやってきたわけです。おめでたい感じですね(意味不明)。この「桜」についてはかなり尾を引いているというか、最後まで関係してきている。

春妃(五堂春妃)は実は、「僕」というか歩太くんの高校のときからのガールフレンド、夏姫(なつき、斎藤夏姫)の姉であることが――しかも、歩太の入院中の父親の新しい担当医であることも――わかるのだけれど、夏姫が春妃お姉ちゃんに勝てなかった(?)理由は、夏にうかうかと大学のサークルの合宿なんかに参加していたからかもしれない。ひまわり柄のTシャツでも着てハイビスカスの香水(なんてないか)とかをつけて歩太くんに猛烈アタック、が必要だった……ってそんな性格ではない感じだけれど。関係ないけれど、歩太くんは春休みに続いて夏休みも土方(どかた)のアルバイトをしているのだけれど、「土方灼け」ってちょっと差別用語っぽくていやだな。何か別の小説では「ポッキー焼け」と言われていたけれど、ポッキーだと、Tシャツを脱いでもまだ着ているように見えるというより、腕だけな感じになっちゃうのか。そう、話が逸れてしまうけれど、下半身がらみの話がちょっと下品に感じることがある、この小説。例えば、夏姫からお姉ちゃんと私とどっちがきれい? みたいに訊かれて、似ているからどちらとも言えない、と答えて、今度は、そんなに似ている? と訊かれて、それに対する「しょうがないだろ。タネと畑が一緒なんだし」という歩太くんの発言…。これはどうなの?(と、女性に訊いてみたい)。私はひいてしまったのだけれど、そんなやつは自分だけか(うーん…)。あと、予備校で石膏像を見ていてそれに春妃を重ね見てしまって、あわててトイレにかけ込んだ、みたいな箇所。美術予備校ではないけれど、自分も昔、予備校に通っていたから、そういう話を聞くと、なんかいや。

本題というか勉強がらみのことも。話が前後してしまうけれど、昨年度の敗因は美大にするかふつうの大学にするかで迷ったから、とのこと。予備校は「御茶ノ水にある美術専門学校」に通っている。勉強はしていないような、けっこうしているような。ゴールデンウィークは勉強していたり(そういえば、小説で“浪人回し”=ペン回しをしている浪人生を初めて発見したかも)、最後の1月に勉強の追い込みをしたり、はしたらしい。その結果(ネタバレ御免)、前年私大に落ちているのにもかかわらず、今年は新しい希望どおり、芸大に合格している(ちょっとすごい)。あと、勉強がらみで何か書き忘れていることがあったかな、……わからない。家庭環境は(これが大事だったか)お母さんは1人で駅前(駅は大泉学園駅)で居酒屋を経営している。歩太くんはそこを手伝ったりしている。計画性がないように感じるところもあるけれど、春妃との距離を詰めていく感じといい、しっかりしている性格なのかもしれない。アルバイトも計画的にしているし。

1年間が描かれている(時間が経過している)し、将来に対して悩んでいたりもするし、浪人生小説としてお薦めはお薦めです。現実の美大受験浪人生が読んで面白いと思うかどうかはわからないけれど。
 

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