富士見ミステリー文庫、2004。えがきかけ、ではなく、きかけ。※以下、ネタバレ注意です。新人の俳優、女優(アイドル)を売り出す程度の役にしか立たないような、映画の原作にちょうどいいような感じ? ひと言でいえば古風な恋愛小説。男の子が(ほとんど自分に対してだけ)気が強い女の子とうまくいくまでが描かれている。話の展開とか個々の場面とかはしっかりしているわりに、底は浅く感じるかな(ライトノベルだから、と自分を納得させることは可能だけれど)。あと、批判の常套句かもしれないけれど、人物もいまいち描けていないように思う。

注目すべき点は、付き合っているわけではないけれど、お互いに意識してはいる高校の同級生男女で、男の子のほうが大学に受かって女の子のほうが落ちる、しかも男の子は上京して女の子は地元に残る、みたいな小説であるということ。それがどうした? とか言われそうだけれど、最後(だいぶネタバレになってしまうか)「僕」(遠藤ユキオ)と神木円の2人がうまくいった感じで終わるのは、設定的にはある程度必然なのかな、と思う。これが男の子のほうが浪人・地元、女の子のほうが大学・東京、みたいなことになれば、男のほうが3日おきに電話なんてできないだろうし(現実逃避的とか女々しいとか思われそう?)、女の子のほうからはそれほど電話してくれないだろうし。メールの頻繁なやりとりにしても同じ感じだろうし。浪人生も含めて受験生どうしで付き合っていて、彼女(この小説ではまだ恋人とははっきり言えないのだけれど)のほうだけが落ちると、男の子はけっこう優しいというか。愚痴などの聞き役、受験勉強の励まし態勢に入るのかな、一般的な話として。わからないけれど。というか、人によって違う、としか言いようがないとは思うけれど。でも、ユキオくんはもっと地元に帰ったほうがいいよね、ゴールデンウィークも夏休みもクリスマスもパスしている。

神木さんの大学不合格の理由は書かれていないのでわからないけれど、志望大学は、浪人の途中からユキオくんの通う大学(小平市にある美大)1本にしぼっている。この小説では女の子が気が強いからあまり悲惨さ、悲哀感みたいなもの(?)が醸し出されていないけれど、男の子(彼氏)を後追いする女の子って、うーん…、どうなんだろうね。とりあえず、東京の別の大学くらいでいいんじゃないか、とは思ってしまう。関係ないけれど(なくはないか)、円の「あたし、来年になったら東京に行くから」とか「一年は長くて、東京は遠いね」みたいな台詞は、なんじゃそりゃ、とちょっとひいてしまったけれど、駅でユキオを見送る場面がちょっといいな、と思ったです。手を振るのではなく、腕組みをしてユキオを睨みながら仁王立ち。(そう、この神木円みたいなキャラも、谷川流の「涼宮ハルヒ」を読んでしまうと、弱いというか薄いというか、どこかもの足りなく感じてしまう。)

ところで、ユキオの大学(美大の油絵学科)合格の勝因ってなんだろうね? 小さいころから絵を描いているということと、円(まどか)のひどい悪戯がきっかけとなって美術部を自主退部して高校2年から絵の予備校に通ったこと、でいいのか。それなら円のほうも、早くから予備校に通えばよかったのにね。その予備校は、高校に通うのに利用している、家から最寄の駅の近くにあるらしい。書き忘れたけれど、場所は茨城の海が近くにあるところ。話が飛ぶけれど、ユキオは大学に入ってから3人の仲の良い友達ができるのだけれど(男2人、女1人)、3人とも浪人して入学してきていて、なんていうか、彼らに対してちょっと優しいかもしれない。その大学じたい浪人して入ってくる学生が多いらしいけれど、自分の好きな人が浪人していると、当然、元浪人生たちにも優しくなれるんじゃないかな、みたいなことは思う。(というのは、よくは覚えていないけれど、大学生小説、機本伸司『神様のパズル』では、2浪して大学に入った人が主人公から「おっさん」と呼ばれてうっとうしがられていたような。優しくないやね。)

どうでもいいけれど、2人の初キス、初エッチまでのシチュエーションはこれでいいの? もう少しロマンティックにしてあげてもよかったのでは? あ、でも、むしろこういうほうが現実的なのか。最後(これもネタバレになってしまうか)円の合格発表まで描かれているのだけれど、もともと電報の文句である「サクラサク」が、今風にはこういう使い方もあるんだな、みたいなことは思ったです。あと(もう文章ぐちゃぐちゃだな(汗))、言葉といえば、友達の1人の橋本くんが関西弁なのだけれど、だったら少なくとも高校生パート(第一章)での主役の2人の会話を茨城弁にしてほしかったかな。ぜんぜん違う感触の小説になってしまうかもしれないけれど。
 

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