※毎度毎度書いていますが、以下ネタバレ注意です。今回はいちおうミステリーなので特に。

同名書(集英社、1980/集英社文庫、1983)所収。8篇中、最後に収録されている。あまり饒舌ではないけれど、いちおう“僕小説”という感じかな。聞き手(たぶん読者)に対して語りかけてもいるような感じ。内容は、1月のある真夜中、予備校生の2人が駈け落ちをしようしていたところ、女の子のほうが持ってきた旅行用トランクから死体が出てくる、どうやらどこかで入れ替わってしまったらしい、みたいな話。女の子(浅倉明子)のほうが行動的で(でも気まぐれな感じ?)、「僕」(佐々木哲)はその彼女にふりまわされているような感じ。要するに、現状につまらなさ、退屈さを感じていた浪人生が、それなら、と駈け落ち(その後、生活がうまくいかなかったら心中)をしようとしていたところ、別の出来事というか事件が発生して(解決して)、ひとまず退屈さの霧が晴れてくれる(で、日常へ回帰する)、みたいな感じ? ←ぜんぜん「要するに」になっていない(涙)。

まぁ面白いといえば面白いし、お薦めかと訊かれればお薦めです、と応えるとは思うけれど、そこは赤川次郎だから(?)なんていうか、独特のゆがみのようなものがあるよね。よね、というか、例えば、

 <「ねえ」/と明子が言った。/「ん?」/「つまんないわね」/「つまんない」/「二人でどっか行っちゃおか」/「行くって……駈け落ち?」>(p.236)

なんかむりやり「駈け落ち」の話に接続しているような。そういうところがユーモアに通じるのかもしれないけれど、ただ、常識的には、この人=「僕」の頭の中はどうなっているのか、とか、日頃どういう思考をしているのか、とか、やや(というかだいぶ)疑問に思ってしまう。現実との対応度という意味で、リアリティがあまりない感じ。

2人が出会ったのは、予備校が始まった初日とのこと。席が隣どうしになったらしい。――これもなんだこりゃ、みたいなことを思うのだけれど、えーと、もう少し引用してもだいじょうぶかな(引用率が心配…)、

 <(略)男子高卒の僕と女子高卒の明子が予備校初日に席を並べたってわけだ。お互い、隣に異性がいるってんで勉強どころじゃない。で、帰り道に今後こんなことになると困るので、よく相談しようじゃないかって喫茶店へ誘ったのが、付き合いの始まりだった。>(pp.237-8)

高校が共学ではなかったから異性に免疫がない、みたいなことは、ちょっと時代を感じるかな(単行本が出たのが1980年)。別に時代のせいではないか。「勉強どころじゃない」というのは、ちょっと過剰反応? 異性に飢えていた……というわけでもないのか。ちなみに、「僕」は手が早いようで早くなくて(これもネタバレしてしまうけれど)10ヶ月間、彼女とはキスもしていなかったらしい(だからそれもユーモアなのか、いきなり駈け落ちっていう)。

その後、大学は受かったのか、この2人は? 女の子のほうはだいじょうぶかもしれないけれど、彼女より成績が下らしい「僕」のほうがかなり心配。ドロップアウトはせずに2浪へ突入という感じかな、雰囲気的に。だいたい「つまらない」とか「退屈」とか言っているけれど、1月の時期であればもう入試が始まっているはずだよね、私立大学とか。いずれにしても、結果はすぐに出るだろうね。(共通一次が始まったのって何年? ――1979年か。もともと雑誌連載なのかな、この短篇集? わからないけれど、「共通一次」という言葉が出てこなくてもしかたがない年代。)2人の志望大学・学部などについては書かれていない。
 

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