『下町探偵局 PART?』に収録されている1篇というか、全4話のなかのいちばん短い「第三話」。手元にあるのは1999年に出ているハルキ文庫のものなのだけれど、単行本は、PART?巻末の「解説」(日下三蔵)によれば、1977年に潮出版から出ているらしい。文庫化もハルキ文庫以前に数度行なわれているようだ。詳しいことは「解説」を読んだほうが早いです。――そんなことはどうでもよくて。まだ?のほうしか読んでいないけれど、あまり期待していなかったせいか、意外と面白かったです。内容は、タイトルに反して(?)あまり推理小説っぽい話ではないけれど、※以下、いつものようにネタバレ注意です。

 <所長の名前が下町[しもまち]誠一、だから名付けて「下町[しもまち]探偵局」――ところが場所が東京・両国なものだから誰もが“シタマチ”探偵局と呼ぶ。平和な下町ゆえ、所長以下五人の局員たちはのんびりと依頼人を待つ毎日。久しぶりの依頼も、近所の中華そば屋で働く女の子からのものだった。あるお屋敷にお手伝いさんとして住み込みたいので、その家の内情を調べてほしいというのだが……。人情味とペーソスあふれる連作ミステリー第一弾。>(カバーより。[ ]はルビ)

全体的にこの「しもまち/したまち」的なずれが、名前とかだけではなく、内容的にも多いかもしれない。「第三話」の冒頭、下町は探偵事務所と同じ建物の部屋で暮らしているのだけれど、夜、寝ていたところを救急車の音で起こされる。あとで大家のお婆さんが教えてくれたところによると、近所のアパートで浪人生(1浪)が睡眠薬を飲んで自殺を図ったらしい(未遂に終わったらしい)。その浪人生は同じ下町にあるメリヤス屋の竹下のいちばん上の息子で、家がうるさいのでアパートは勉強部屋として借りていたらしい……って、そんなことはどうでもいいか(汗)。一方、そのころ、裏口入学の斡旋の依頼ではなく、ある大学(東日本医大)の裏口入学の噂などについて調べて欲しい、という依頼をしてきた女性(野口昌代)に関して、局員の1人である岩瀬(岩瀬五郎)が調べている。ネタバレしてしまうけれど、その女性にはその医大を目指している浪人生(2浪)の息子(弘治)がいて、別れてきた先というか元夫の一家は医師の家系らしくその医大卒の人がたくさんいる、みたいな家であることがわかる。――2人の浪人生に接点はまったくないのだけれど(「しもまち/したまち」的なずれ?)、浪人生といえば例によって、自殺、あるいは医学部志望、みたいなイメージなのだろうか、やっぱり。なんていうか、何か面白いオチがあるという小説でもなくて。人情味があるというか、読み終わってしみじみしてしまうというか。

浪人生目線ではなく、やっぱり親の目線になっているのかな。親の目線というか、親は子どもに対してどう接するべきか、みたいなことも語られている。浪人生小説(そんなジャンルはない)としては、個人的にはクエスチョン・マークな感じです。少なくとも浪人生が読んで面白い小説、という感じではないと思う。小説としては(繰り返しになるけれど)個人的には意外と面白かったです。ちょっと昔の東京の下町やその住人を描いた小説として。PART?のほうも時間があればとっとと読みたい。そう、老人介護・福祉とか貧富の格差とか(ネタバレしてしまうけれど)公害問題・薬害問題とか、けっこういろいろと考えさせられる小説(集)だったかも。

何かいつも書いているようなことで書き忘れたことってあるかな。――あ、季節は、冬の手前くらいの秋。時代はよくわからないけれど、1977年…ではなくて、1976年かな。あと、そう、あまり書けなかったけれど、「しもまち/したまち」的なずれ、というか、けっこう不思議な内容的/形式的なリンクが多い、この小説。例えば、飛び込みのお客を意味する隠語らしい「窓口の客」と、どういう意味かよくわからないけれど「第三話」のタイトル「裏口の客」とか。あと、「第ニ話」の最後が電車に飛び込む人身自殺で終わっているのだけれど、「第三話」の冒頭が睡眠薬を飲んでの薬物自殺で始まっている、みたいなこととか。ほかには(何か以前に読んだ小説でもそうだったけれど)ぜんぜん関係のない登場人物に同じ姓または名が付いていることとか(別にそれがいけないというわけじゃないけれど)。ずれ、というか、そういう微妙な異同が多いような。それがどういう読書効果を与えているのか、私にはわからないけれど。
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索