短篇集『時鐘館の殺人』(中公文庫、1998)に収録されているいちばん短い1篇(5/6、20頁くらい)。「あとがき」を読むとノベルス版が出ているようだ(何ノベルス?――あとで検索すればいいか)。※以下、ネタバレ注意です。すみません。

8月半ばのある日の夜、浪人2年目、受験勉強よりもアルバイトが忙しくなっている主人公、善郎(高岡善郎)がアルバイトから1人暮らしをしているワンルーム・マンションに帰ってくると、留守番電話に見知らぬ女性からのどうやら間違い電話らしいメッセージが残されている。その後も家に帰ると、同じ女性からのメッセージがたびたび残されていてそれが日増しに狂気を帯びたものになってくる、みたいな話。ネタバレしてしまうけれど、電話口なのに(あなたの)子どもがう、産まれるー、みたいなこととか(怖)。最後にオチはあるのだけれど、ミステリーというよりホラーな感じかもしれない(どう違うのか、よくわからないけれど)。

ところで、地元に現役のときに同じ大学(東京の大学?)を受けて仲良く落ちて、いまは短大に通っている彼女(片瀬真紀)がいるらしいし、主人公はどうして地元で浪人しなかったのかな? 実家から通える範囲に予備校がないのかな。彼女のほうも、どうして短大(たぶん滑り止め)で妥協してしまって、彼と一緒に浪人しなかったのか。両親が浪人を許してくれない、とかそういう理由でもあるのか、それとも本人自身が浪人するくらいなら彼氏と離れて暮らしたほうがいい、とか思っているのか。そう、どうでもいいことだけれど、受験生どうしで付き合っていて、受験の結果、男の子=東京で浪人生、女の子=地元で大学生(短大生)という状況になっている小説は始めて読んだ(たぶん)、短めの短篇だけれど。

善郎くんは、彼女というか真紀から手紙が何通も来ても留守電にメッセージが残されていても、3月に大学不合格を告げて以来、1度も連絡をしていないらしい。――音信不通は5ヶ月くらい? 現実であれば、地元にいる彼女に新しい彼氏ができたりとかして、自然消滅してしまいそうな感じだけれどね。あ、でも、高校1年のときから付き合っているらしいから(4年以上?)それほど浅い、簡単に別れられるような付き合いでもなかったのか。連絡をしていない理由は――ちょっと引用させてもらうと、

 <真紀が嫌いになったのではなかった。この大都会の中で、いつのまにか人生の道しるべを見失い、途方に暮れている自分が嫌になりはじめていたのだ。そんな自分を、知り合いの誰にも見られたくない。>(p.237)

バイトにはまっていたり(逃げていたり)、東京に負けそうになっていたり(?)、浪人生というよりちょっと大学生の心理っぽいかな。モラトリアムというかスチューデント・アパシーというか。話が逸れていくけれど、浪人生が出てくる小説を読んでいて、ときどき「モラトリアム」という言葉を見かけるけれど、なんか違和感がある。借金返済猶予期間――留年を繰り返している大学生などとは違って、浪人生には本来、社会的に猶予期間なんて与えられていないと思うのだけれど、どうだろう? 勉強しろや=すぐに金返せや、という感じ? そのへん、大学生(あるいは高校生)と浪人生との違いはけっこう大きいような気も。

善郎くん、アルバイトはしていても、昼間はちゃんと(?)予備校には通っているらしいけれど、成績は現役のときよりも落ちている、とのことだし、来年ちゃんと当初の志望大学には合格できるのかな? このままでは無理かもしれないけれど、でも、まだ入試までに3、4ヶ月あるから、どうにかなっているかもしれない。
 

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