創元推理文庫、2006。もともとだいぶ前に講談社から出ていたものらしい(単行本、1977/文庫、1988)。1冊しか読んでいないのでよくわからないけれど、「<館>三部作の第一弾」であるとのこと。読みにくくはないと思うけれど、けっこう字が詰まっていて(これで650円ほどならお買い得かな)、読み終わるのに(例によってとても遅読なので)かなりの時間がかかってしまった。――それはそれとして、※以下、いつものようにネタバレにはご注意ください。

 <財産家のおばが住まう<崖の館>を訪れた高校生の涼子といとこたち。ここで二年前、おばの愛娘・千波は命を落とした。着いた当日から、絵の消失、密室間の人間移動など、館では奇怪な事件が続発する。家族同然の人たちの中に犯人が? 千波の死も同じ人間がもたらしたのか? 雪に閉ざされた館で各々推理をめぐらせるが、ついに悪意の手は新たな犠牲者に伸びる。>(カバー後ろより。)

少女趣味的というか、女の子的な甘ったるい語り口(川上弘美系でも小川洋子系でもない、あるいは両方混ぜたような感じ?)は、個人的にはそれほど嫌いではないのだけれど、詩や絵画・彫刻などについて語られたり、交わされたりする芸術論がなぜか読んでいてぜんぜん頭に入らなくて…。個人的にはかなり無理な感じ、高校や大学のときのつまらない授業を聞かされているような、しかも暖炉的な暖かさ(?)に包まれてどうも眠くなってくる。芸術論だけではなくて、文章が全体的に、修辞的にまわりくどくもなっている。日ごろ、翻訳ものの小説とかを読みなれていないから、こういう文章が読みにくく感じるのかもしれないけれど。

毎年、夏と冬におばさんの館に集まっているらしいいとこたちは、2年前の冬に亡くなっている千波ちゃんを除いて計6人。年齢的には、上は29歳の研さん(研一)・真一さんから、いちばん下は17歳(高校2年生)の「私」(涼子)まで。そういえば、千波ちゃんを入れて7人の血縁関係がどうなっているやら、最後まで読んでもわからない。少なくともその7人のなかにきょうだいはいないらしい(ということは、おばさんは7人以上きょうだい? それとも、亡くなった旦那さんの兄弟の子どもも含まれているのか)。それで――このブログは小説中浪人生を取りあげるブログ(やや嘘)なので――、年齢がいちばん近く、「私」が密かに(でもバレバレな?)想いを寄せているらしいのが、浪人生の哲文君。志望大学というか学部というかについては、親とかが医者なのかどうかはわからないけれど、おばさんや(登場してこないけれど)両親からは医学部に入ってほしいと思われていて、でも、本人はどちらかといえば美大に入りたいと思っているみたいな、小説ではよくあるパターン。ただ、そこらへんの浪人生小説とは違って、生前の千波ちゃんに触発されたり、鍛えられたりして(?)芸術についてあれこれ知識があったり、語ることもできたりと、けっこう具体的である。おばさんは、財産がある人ならではの(?)「はじめに好きな勉強をさせて次に医学の勉強をさせる」という大学を2つ行かせる案(もともとは千波ちゃんと研さんが考えたものらしい)も頭にあるようだけれど、ま、いずれにしても、哲文君、いま試験がかなり近いはずの冬なのに(館にいる間は息抜きという感じなのかもしれないけれど)せっぱつまった感じがまったくない。浪人生なら勉強しようよ?(みたいなことはあまり思わない小説だけれど、でも、やっぱり勉強しようよ?)。あと、そう、道化的な感じではないけれど、哲文君はいちおう事件について考えを披露したりする演説キャラになっている。

推理小説としてはどうなのかな、この小説。私は“ミステリ読み”ではないのでよくわからないけれど(と逃げておきたいけれど)、トリックとかがメインな小説が好きな人にとっては、やっぱり無駄が多いという感じかもしれない。その無駄に思える部分(少女趣味的修辞部分?)がよい人と思える人にはよいのかもしれないけれど。視点というか語りが「私」オンリーなので、その点では読んでいてちょっと単調な気がするかな。そう、千波くん……じゃなくて、千波ちゃんが書いていた事件日記がやっと見つかったと思ったら、その文体がいままでとほとんど変わりなくて、ちょっと脱力。

[追記]3部作の2冊目、『水に描かれた館』もやっと読み終わったのだけれど(※以下、ネタバレ注意です)、これは1冊目の2ヶ月後、たぶん3月下旬くらいの話らしいのだけれど、哲文君は精神科医をめざす医大生(札幌医大)になっているらしい(創元推理文庫、p.211など参照)。でも、それだとどこかおかしいような気が…。3月ではまだ大学が始まっていないよね。うーん、よくわからん(まぁいいか)。「私」(涼子)との年齢差はたしか3つだっけ? であれば、たぶん浪人期間は2年で終了。
 

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