光文社、2005/光文社文庫、2007。だいぶ前に図書館で借りて1度読んで、今回、文庫(購入)で再読。とても面白いし、あちこちで笑えるのだけれど、なんていうか、ほとんど皮肉に感じてしまって…。藤野千夜も(多和田葉子とか伊井直行とかと一緒で)個人的には、素直に好きだと言えない作家かもしれない。でも、やっぱり面白いし、お薦めかと尋ねられたら、いちおうお薦め、みたいには答えると思う。5点満点なら4点くらい、かな。※いつものように以下、ネタバレにはご注意ください。

 <部屋に野菜の名前のついたアパート。A号室はアボカド、Bはブロッコリー、Cはキャロット、Dはダイコン。ドアの内側には微妙な問題が。大家の山本さんは四人家族。四十代の両親、予備校生の息子、高校生の娘、こちらもいろいろあって……。住人たちと大家さん、二つの視線は絡み合いすれ違い、それぞれに季節は巡っていく。芥川賞作家の傑作小説。(略)>(文庫の表紙カバーより。)

家族小説&アパート住人小説、という感じ? 大家さんの山本家の一員としては、あと、息子のタカシや娘のさやかが帰ってきたとき、鎖をジャラジャラさせて喜ぶ犬のシッポナがいる。――連作短篇集なのだけれど、本の後ろのところを見ると、「季節」というか作中の年月はだいたい初出(『小説宝石』)のそれと対応しているようだ。

 「アボカドの娘」 2001年12月号
 「ブロッコリーの日常」 2002年10月号
 「キャロットの二人」 2003年3月号
 「ダイコンの夢」 2003年10月号
 「アボカドふたたび」 2004年7月号
 「さよならベジタブル」 2004年10月号

結局4年くらい進んでいるのか。ちょっとネタバレしてしまうけれど、最初、予備校の午前部に通う浪人生だったタカシは、もう1年浪人して最後は私大の経済学部に通う大学生(2年生かな)に、高校生だったさやかは最後、浪人生になっている。息子だけではなく娘にも浪人させているあたり(さすがは藤野千夜?)ジェンダー的にはフェアな感じがする。でも、やっぱり娘というか女の子のほうが、ちゃんと勉強している感じ。このぶんではたぶん(もちろんわからないけれど)2浪はしないのではないかと思う。あと、浪人生としては、タカシの高校の同級生で予備校仲間だった鶴田(元音大志望、でも家が医者で医学部志望に)が、タカシが受かったあとも浪人(3浪)している。

浪人生小説としてはどこが読みどころなのかな? とりあえず読んでいてあちこち面白いことは面白いのだけれど。そう、どれくらい一般化できる話かわからないけれど、「キモイ」を連発する高校生の妹が、浪人生の兄に対して抱いている感情とかも面白い。あ、タカシに関してはいちおう、恋愛がらみの話が多いようだ(でも、恋愛小説としてはだいぶ無理をしないと読めないかな)。2篇目(「ブロッコリーの日常」)では、予備校で(1浪のときに)知り合って付き合っていた女の子(吉本ゆり、いま大学生)からふられていて、彼女を忘れられずに引きずっているのだけれど――引用してもだいじょうぶかな、ふられたさいの言葉が、これも面白いといえば面白い。

 <「タカちゃんはさー、なんかずるずるしちゃうタイプだから、私なんかと遊んでないで今年は勉強したほうがいいと思うんだよねー、だってやばいよね、もう二浪なんだしー、っていうか、普通しなくない? 二浪。まあねー、そういうのも偉いことだとは思うんだけど、文系はそのへんで限界だよねー、将来就職とかもできなくなっちゃうよー」>(p.43)

なんでこんな女の子がタカシの狭いストライクゾーンのど真ん中なのか(どうしてタカシの理想なのか)とか、読者の認識に疑問を生じさせる感じ?(だから面白くはあるけど、うーん…という感じ)。「っていうか、普通しなくない? 二浪」って、ある種の女の子らしい残酷な言葉だよね。この前まで一緒に遊んでいたくせに、もしかしたらそっちだって2浪していたかもしれないのに? なんていうか、人生の岐路に立っている浪人生をふるさいは、ふる側もある程度、相手の今後の人生に関わるようなことをしているんだ、みたいな認識が欲しいよね。……そんな重い話はいいや(汗)。タカシくんは、このあと2人の女の子(ミエ、高山カナ)と付き合っている。3人目くらいでよい人が見つかる、みたいなことも小説的にはパターンなのかな。そう、関係ないけれど、3人目のカナ(大学生だっけ?)と大学生になったタカシが出会う場所が、乃南アサ『あなた』の主人公、川島秀明がカンナと出会う場所と同じで、自動車教習所。二股、三股当たり前!みたいな秀明よりは、タカシくんの女性遍歴(?)のほうが好感が持てるかな、というか、タカシのほうがふつうなのか。(あと、これも関係ないけれど、タカシが逃げようとしている2人目の、最初専門学校生であるミエに対して、「くねくねしている」という形容がされていたと思うけれど、この、あまり好ましくない女の子に対する「くねくね」は、確か角田光代も使っていて、よくわからないけれど、慣用的な定番フレーズなのか?)

場所については、東京は東京らしい。具体的なアパートがある場所とか、さやかが通っている予備校の場所とか、これも東京に詳しい人ならちゃんと特定できるのかもしれない。(1のキャロットの2人、なつ美&美加が以前住んでいたのが、下高井戸だっけ? その隣の町ってどこ? やっぱり無理、私にはわからないです(涙)。)もっといろいろ書き忘れているような気がするけれど、まぁいいや。この小説、人がたくさん出てくるし、ごちゃごちゃしているし、いまさらだけれど、感想がちょっと書きにくいかもしれない。
 

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