『出社拒否宣言』(立風書房、1995)として出ていた単行本(?)が改題されたものらしい文庫、『敢えて出社せず』(ノン・ポシェット、1999)所収の1篇。7篇中の6篇目。小説としてはどうかと思うのだけれど、だいぶ前に読んだことがある同じくお父さん小説、重松清の「かさぶたまぶた」(『ビタミンF』)よりはまだましであると思う、タイプがぜんぜん違う小説だけれど。※内容をけっこう書きたいので以下、ネタバレ注意です。

父親(日野文太)は、勉強していないらしい浪人2年目になる息子(俊太)を、母親(紀美子)に頼まれたりもして、勉強するように説得を試みるのだけれど、うまくいかない。そうこうするうちに息子というか俊太は、去年予備校で知り合ったいまは大学生になっている彼女(三上由紀)のもとに転がり込んでしまって家に帰ってこない。お父さんというか文太は(お母さんもだけれど)家に戻るように俊太を説得に行き、でも、やっぱりうまくいかない。俊太くんはどうやら小説を書いていたらしく(だいぶネタバレしてしまうけれど)、何度目の応募かわからないけれど、新人賞(「文芸現代」の新人賞)を受賞することができて、会社(東西デパートの池袋支店)では出世コースから外れているお父さんも、ちょっと鼻たかだかみたいな、最後はほぼハッピー・エンドで終わっている。←あいかわらず下手なまとめでもうしわけない(涙)。

お父さん目線だけれど、大学だけが人生じゃないさ、みたいな話なのかな、これ。浪人生小説としては明らかに、ドロップアウト系。『文芸現代』という雑誌がどれくらいの知名度がある小説雑誌なのかわからないけれど、とりあえず新人賞が受賞できれば、ちょっとうだつはあがる感じだよね。下手したら女の子に食べさせてもらうような無職か、フリーターみたいなことになっていたかもしれないし。この人の場合、小さい頃から家庭新聞みたいなものを書いたりとか、才能はあったような感じだけれど。でも、やっぱり小説としては(?)ちょっと結果オーライな気はする、うーん…。話が戻るけれど、主人公というかお父さん的には――後ろの解説(成田守正)から引用させてもらえば、

 <「息子の学歴」は、大学進学とは別の選択で自身の道を切り開いた息子に、親が教えられるというもの。サラリーマン社会では大企業であるほど、学歴がものをいう。そのことを知っていればこそ親は子供をいい大学に入れようとする。しかしそのときすでに、親は子供に会社の論理を押しつけているともいえる。>(p.282)

。お父さんというか文太は、家庭の事情で大学へは行かせてもらえなかったらしい。俊太のお兄さん(雄大)も少し出てくるのだけれど、そちらは文太の意にだいたい沿っている感じ(O大に現役合格、いまは山下電機に勤めている社会人2年目)。でも、お父さん本人が出世できないから(いまの仕事はお客とのトラブル解消係)、息子には、という身代わり願望的なことだけでなく(それならはわかるけれど)、ほかの社員との人間関係(見栄のようなことも含めて)も関係していて、そちらに対してはちょっとどうなのかな、とは思う。すなわち、会社の論理というか世間の論理な感じ? 例えば、同僚や上司から息子さんは何をしているんですか、と聞かれて、しぶしぶ、いや浪人です(えへへ?)みたいに応えなくてはいけないバツの悪さ――確かにめんどくさいか。ある程度、名の知れた大学に入っていてくれれば…、みたいなことは思ってしまうかな、確かに。というか、人のことはぜんぜん言えないな、自分も浪人していたとき、両親に対して肩身の狭い思いをさせていたような記憶がとてもある。職場、親戚、隣近所――世間というかで。
 

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