集英社文庫コバルト・シリーズ、1983。なんとなくもっといらいらする小説かと思ったけれど、意外とさらさらと読めてよかったです。なんか最近、小説の評価基準がいらいらするかしないか、みたいなことになっているな(汗)。いらいらしても、面白い小説は多いけれど。※いちおう以下、ネタバレ注意です。

8篇収録されている短篇集。語り手は基本的にハイ・ティーン、高校生から大学生くらいの男の子。仲のよい男友達がいたり、マスターがお兄さんくらいの年齢の、行きつけの喫茶店などがあったりして、好きになる女の子あるいは付き合っている女の子が出てきて……女の子とうまくいかない話よりはうまくいって終わる話のほうが多いかな、どの1篇かに「青春抒情小説」みたいな言葉が出てきたけれど、そんな感じかもしれない。ひと昔前の(70年代後半から80年代前半の?)薄味の青春恋愛小説みたいな感じかも。最初の4篇は、北海道は札幌市が舞台。6篇目は彼女が札幌にいるけれど、6篇目から8篇目は東京に舞台を移している。浪人生が登場するのは、いちおう5篇目から7篇目。6篇目と7篇目は予備校生が語り手。

「風の影はセリリアン・ブルー」(5篇目)
北大生の「ぼく」(神崎諒)は去年の冬休みに、上智大生の水沢有希と知り合って(いちおう高校が同じだったらしく、正確には再会して)いまは遠距離で付き合っているような、そうではないような。この夏、彼女が帰省している間にキスをしたい、したほうがいいのではないか、みたいな状態にある男の子、なのだけれど、なかなかできないみたいな話。なんていうか、ちょっと懐かしいかな、こういう小説。昔、読んだことがあるようなないような。で、そんな「ぼく」の友達として、2浪中の吉沢という高校のときの同級生が出てくる。「ぼく」の家に遊びにきて、曰く「……おれ、大学受けるの止めたさ」(p.165)。脇役だけれど、大学受験ドロップアウト系? やめた理由は、自分は受験向きではないから、とのこと。高校のときから得意だったギターに専念するらしい。そんな会話のあとで「ぼく」たちはいつものように野球ゲームに興じている(余韻というかこれが抒情か?)。ドロップ・アウトして音楽の道を選ぶ浪人生が出てくる小説としては、清水義範『学問ノススメ<自立編>』など参照。小説ではないし、ちょっと古いけれど、ミュージシャンが19歳くらいのときに何をしていたかについては、宇都宮美穂『19(ナインティーン)』(ソニー・マガジンズ文庫、1994)なんかも参考になるかもしれない。大学受験なんて関係がない無頼な(?)音楽関係者が多し。見習うべし?

「雪の翼はミルクセーキ・ホワイト」(6篇目)
<年がめくれて80年代がひょっこり顔を出すと、さすがに予備校はサッキ立ってくる。>(p.180)と始まる短篇。通っている予備校が渋谷の「道玄坂予備校」ってなんかちょっとすごいな(そうでもない?)。「おれ」(=三井聖)の志望は、予備校仲間の2人――女好きで軽めの(?)風見と九州出身で道玄坂予備校3年目の「会長」――と同じで、早稲田の政経。よくわからないけれど、3人とも勉強はしていない感じ。「おれ」は5篇目の話とは逆に、北海道に高校のときから付き合っている(ようないないような?)彼女、青井碧(北国大生)を残して来ている。――今邑彩「恋人よ」(『時鐘館の殺人』)を読んでも思ったけれど、この人も上京しないで地元で浪人すればよかったのにね。1979年、Yゼミ(札幌校)ってもうあったんじゃなかったっけ? 大学に合格してもしなくても、少なくとも(彼女のほうが大学を卒業するまでの)3年間は離ればなれなわけだよね。「おれ」というか聖(せい)のほうが、早稲田を諦めて北海道の大学を受けれるとかすればいいのか。大学受験よりも恋愛のほうが大事!……なこたない? そう、3浪生「会長」のほうは、早稲田をやめて地元の自宅から通える博多のR大を受ける、と言い出している。3浪というのは、なんていうか、夢(第1志望)を諦めさせる時期なのかな、だいたい浪人自体が、3浪くらいが上限であるような気がするし(大学全入時代の昨今は2浪くらい?)。でも、試験日がかぶっていなければ、受けるだけは受ければいいのにね、早稲田。というか、いちおう受けるのかな。

「あしたもサルビア気分」(7篇目)
これも微妙に……別に微妙にではないか、昔よくあったような話かもしれない。Aくんは、BくんとCさんが好きどうしであると思っていて、Cさんからは身を引いているのだけれど、実はCさんはBくんではなくAくんのほうが好きである、みたいな。ネタバレしてしまうけれど、この前読んだ小室みつ子『彼女によろしく』とか、昔のTVドラマなら『東京ラブストーリー』とか(たしかそんなような話じゃなかったっけ? 織田、江口、有森)。家は儲かっていない開業医で、Y予備校(これも渋谷のへん?)の医歯進系クラスに通う「おれ」(石野聖)は、父親と進路で対立して、ただいま家出中。高校3年のときになんとなく気があっていた仲間の1人、現在はS大文学部英文科に通う才色兼備な円のところ(女子寮!)に転がり込んでいる。――医学部に進むのをやめるのはいいとしても、友達(のちに彼女?)が通っている大学学部を新しい志望にするっていうのはどうなのかな? なんか腑に落ちない。でも、そういえば、自分が浪人しているときにいたな、「どうして○○大を受けるの?」と聞いたら、「友達の××が通っているから。あいつが受かるならオレも受かりそうだから」みたいなことを言っている人。別に珍しくはないのかも。「おれ」というか聖(しょう)には、2ヶ月前に予備校の夏期講座で知り合って、付き合っている(ようないないような?)高校3年生の女の子――河合留美、家は儲かっているらしい開業医――がいるのだけれど、医学部進学をやめると言ったところ、ふられてしまうというか、顔はよくないみたいだけれど、予備校の模試で連続5回1位、東大医学部も間違いないらしい三橋克彦(長野県出身?1人暮らし?)に電光石火で乗り換えられてしまう。この女の子もちょっと変なのかな、そんなに焦らなくても大学に入ってから跡取り婿養子を探せばいいのにね(あ、あれ? 別に結婚相手を探しているわけではないのか)。あと、大学受験は関係ないけれど、高校のときに気の合っていた仲間のもう1人で、聖が円が好きだと思っている相手、B大生の久保に誘われて、聖くんはB大の学園祭(いま季節は秋なのか)で手相見をしている。――占いって簡単にできるぼろ儲け出し物なのかな、少し前に読んだ小説、いちおうサークル(易学研究会)に入っているけれど、高須智士「運命を辿って」(『君を、愛している』)なんかも儲かっている感じだし。そう、書き忘れていたけれど、小室みつ子『彼女によろしく』のお父さんもなかなかいい人だったけれど、この短篇のお父さんもなかなかいい感じです。
 

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