中央公論新社、2006。角田光代の書くもの(小説、エッセイ、書評その他)が嫌いなので、何か暴言を吐いてしまいそうな予感がするけれど、でも、この小説は意外と面白かったです。いらいらはするけれど(主人公を後ろからどつきたくなる)、読みやすかったし、いちおう最後まで読み通せました。※以下、いつものようにネタバレしていると思うので、読まれていない方は、ご注意ください。

内容はひと言で言えば(型にはめていいのなら)家族小説。崩壊と再生というよりは、変化? 少なくとも心理的には、いったんバラバラになっている感じ。「私」(谷島里々子)には、「ぴょん吉」と呼びかけている脳内弟(?)もいるけれど、両親のほかに3人の姉(有子、寿子、素子)がいる。姉妹それぞれが描かれているので“4姉妹もの”という感じでもあるかもしれない。『若草物語』とは違うけれど、2番目の寿子(ことこ)はいちおう新人賞を受賞して作家デビューしている。タイトルの「飛行機」はとりあえず、「私」というか里々子(りりこ)がしばしば家の物干し台から眺めているもの。夜であれば明滅している感じ。描かれているのは、1999年の十五夜の翌日(秋)から1年くらい。高校3年生の主人公は(ネタバレしてしまうけれど)大学受験に失敗して、後半くらいから浪人生になっている。

関係ないけれど、「飛行機」といえば「私」は、中学から通っていたお嬢様女子校、Y女子学園(小中高一貫)を高校1年のときにやめて、都立I高校に転校した(で、そこにいま通っている)らしいのだけれど、以前通っていた女子校を喩えて、<ファーストクラスとビジネスクラスとエコノミークラスが目に見えて混在しているような雰囲気>(p.11)と語っている。1度も飛行機に乗ったことがないと言う「私」の言葉としては、若干不自然であるような気が。しませんか? 細かいところに突っ込みを入れているときりがないけれど、ほかにも、わかりやすいところでは、例えば「ABC」とか「非処女」とか。1982年生まれ(早生まれ)の高校生が使うような言葉ではないでしょう? 懐かしさ、昔っぽさを出している小説ではあっても、そんなもので出す必要はないし。(あまり関係ないけれど、コトちゃんが賞をとるのが、『小説飛雲』という雑誌の新人賞。「飛雲」には飛行機雲、という意味も? あるいは、飛雲→ひうん→悲運? それじゃ受賞してもあまり寿(ことぶき)な感じがしないな(汗)。そう、別の出版社の編集者、瀬谷が言う「ロビンソン一家」/「裏ロビンソン一家」って何? 飛ぶ雲のように漂う/漂わない家族? あと、これも関係がないけれど、80、81ページのへん、「黒い猫のぬいぐるみ」+「あわてて大人になんかなるなよ」って『魔女の宅急便』? アラレちゃんにバイキンマンで、時代錯誤的に、最後おばあちゃんの『とっとこハム太郎』でオチているのか。――うざっ! そもそも「ぴょん吉」からしてめんどくさいし。)

ストーリーは、結婚している1番上の有子(ありこ)が出戻って来たり、また家を出て行ったり、3番目の素子(もとこ)が家の酒屋をワインも売るようなおしゃれな店(「リカーショップヤジマ」)にすると言い出して実際にその方向で話が進んだり(家ではなく店だから“入れ物”ではないけれど、家族の変化にともなって家の表の顔(?)も変化しなければならないのか、なんなのか)、あと(ネタバレになってしまうかな)1人暮らしをしていた叔母さんのミハルちゃんが亡くなってお父さん(謙三)が三が日が明けるまで親戚たちには内緒にしておくようにと言い出したり、1番下の「私」には松本健という大学生(I大2年、もともと店のお客)が言い寄ってきたり、予備校の近くの喫茶店(「レインボーカフェ」)でアルバイトを始めてそこでアルバイトをしている大学生、篠崎怜二を好きになったり……など、人が多めに出てくるし、長篇だからまぁいろいろとある感じです。

大学に落ちた理由は、第1志望のI大学(どうして高校と同じイニシャルにした?)の試験前日には素子と一緒に有子の浮気調査のようなことをして、それが敗因にも繋がったようだけれど、受けた大学はすべて落ちたらしく、その他の大学(いわゆるすべり止め)の敗因は……よくわからないけれど、やっぱり家族がらみのこと(姉の出戻り、叔母の死など)で勉強に身が入らなかったから、という感じか? そもそもあまり勉強している雰囲気ではなかったけれど(だいたい進路、受験について考え始めたのが「恐怖の大王」が降臨して来なかったから? ――なんていうか、やんなっちゃうよね)、浪人してからも雰囲気的にはあまり変わらない小説。家族のことだけでなく、好きになった篠崎怜二のことが頭を占めている感じ。予備校がらみのことでは、高3のときは高校の友達、千夏(加古川千夏、I大合格)と一緒に通っているのだけれど、浪人してからは、予備校では友達ができないらしい。――少し引用しても大丈夫かな、たいした箇所ではないし、

 <私は今、十八年間の人生のなかでもっとも孤独である。孤独であるよ、ぴょん吉。/教室は満席だ。(略)隣に座るのは、毎日違う顔だ。話しかけると、ぎょっとしたような顔をする。この場で友達を作ることはどうやら無理な相談らしいと、四月も終わりになって気がついた。>(p.164)

予備校は前年(高3のときに)通っていたところとは別なのかな、同じなら友達でなくても1人くらい知り合いがいそうだけれど。思うに(自分の経験+想像から言って)たぶん5月、6月くらいになると生徒が来なくなって空いてくる授業も出てきて、そうするとみんな座る席もだいたい固定されて、仲良くなれる人とかも出てくると思うんだけれど。そんな都合よくはいかないかな。予備校選びも難しいというか、通ってみなければ雰囲気みたいなことまではわからないかもしれない。勉強以外のもろもろは1年くらい我慢すればいい、みたいに考えている受験生も多いのかも。(堀田あけみの『ボクの憂鬱 彼女の思惑』のように、誰か男の子が話しかけてあげればいいのにね。でも、そのためにはもっと死にそうな顔をしていないとダメか。) コースは「私大文系コース」らしい。必要な受験科目は、英語と日本史と小論文? 理系度ゼロだな。というか、少なくて楽そうだ(だからかえって勉強しない?)。

「私」は最後、いちおう成長している感じ。これもネタバレしてしまうけれど、「ぴょん吉」はいなくなって(早い段階からいなくなりそうな感じだけれど)、いちおう大学進学の新しい目的(p.288、<篠崎怜二をはるかに上まわるいい男と恋愛すること>。――めんどくさ…)も見つかったようで、なんていうか、そりゃ良かったですね、ってなもんです。

[追記]その後、文庫化される。中公文庫、2009。
 

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