北杜夫 「異形」

2007年9月17日 読書
『星のない街路』(新潮文庫、1973)所収、8篇中の4篇目。この本には単行本情報が書かれていないけれど、初出(というか、雑誌掲載情報)は各篇の最後に書かれていて、この1篇は『新潮』の1959年7月号に載ったものらしい(あまり関係ないけれど、同誌の前月号には、途中までは浪人生小説の安岡章太郎「相も変らず」が掲載されている)。感想は、意外と面白かったというか、けっこう面白かったです。([追記]収録作がわからないけれど、『星のない街路』という文庫本は、中公文庫からも出ているみたい(1969年)。[訂正]1969年に出ているのは文庫ではなくて、単行本のようだ。中公文庫からも出ているのかな?)

終戦の翌年、季節は(山なので寒いけれども)秋。喬(たかし)は、受験に3度失敗しているという松本の高等学校(松高)に入ることは諦め、でも、登りたいと思っていたアルプスに、憧れの松高の帽子(旧制高校といえばやっぱり帽子か)をかぶって登っている。記念登山……ではなくてなんて言うのかな、残念1人パーティというか失恋旅行というか? どれも違うか(汗)。そもそも松本の高校を受験した理由が、山に登りたかったかららしい。

で、泊まろうと思って(寝ようと思って)足を踏み入れた山小屋で、花崎三郎と名のる、山高(山形の高校)の寮の炊事部委員で、全国の高校をまわっているという人物と出会う。タイトルの「異形」というのはたぶんその花崎のことで、どこか動物(獣)っぽくて、表情や声、言っていることなどが不気味で(?)普通ではない雰囲気を漂わせている。喬は花崎に帽子を見られて「あんた松高生じゃないか」と言われるのだけれど、思わず肯定してしまう、みたいな(よくある?)展開に。そのあとは――ネタバレしすぎてしまうから書けないけれど、その怪しさ満点な花崎が本当は何者なのか、みたいな。喬くんが何もされずに無事でいられるか、みたいなサスペンスな空気もあるかな。

後ろのほうで「テンプラ」という言葉が出てくる。帽子をかぶっているだけで、テンプラ(テンプラ高校生)なのかな? 「テンプラ学生」というのはふつう、学校にそこの学生のふりをして勝手に入り込んでいる人、くらいな意味? いずれにしても、だいぶ前からあまり聞かない言葉であるような。あと、受験というか松高を諦めた理由は――引用したほうが早いかも、

 <「いま会社に勤めてる。アメ公の会社で給料はいいんだ。初めは腰かけでもう一度高校を受けるつもりだったけど、会社にはいってみるとそういう気持ちはなくなっていくよ。僕はもう諦めたんだ。あとはせっせと働くよ」>(p.145)

いまでいえば外資系?(違)。働きながら勉強するという二足のわらじ(?)も大変だろうけれど(仕事で疲れて勉強どころじゃない、とか)、給料その他、現状もまんざら捨てたもんじゃない、みたいな感じなのかな? 仮面浪人の人がほかの大学を受験するのを諦めるとき、そのドロップアウト理由も、もしかしたら似たような感じが多い? いま通っている(籍のある)大学でもまぁいいか、みたいな?
 

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