ジグザグノベルズ、2006。※いつものように以下、ネタバレ注意です。すみません。

東京は本郷の周辺が舞台となっている小説。とりあえず悪魔の恩返し、みたいな話。入院した叔父に代わって古本屋(「本郷懐古堂」)の留守居役をしている浪人生の大野智明(ともあき)が、年上だけれど、小さいころからの親友である羽山正直(まさなお、T大生・獣医学科)に頼まれて、正直の曾祖父が残した古書を引き取ることになるのだけれど、その古書の1冊から悪魔のしっぽ(というのはあとでわかる)が出てきて、直後、今どきの若者ふうの悪魔も現れて、ありがとうお礼がしたい、みたいなことを言われる。それで、とりあえず智明が予備校に行っている間、その悪魔=岳斗(がくと、819歳)に古本屋の店番をまかせる、みたいな展開。――羽山家の家系(4代)など、あれこれと設定は細かく作られているけれど、それに乗っかっているストーリーがちょっとしょぼい感じ。2篇というか2話入っていて、最初のほうは、ラ○ホテルで首なし死体が見つかって、どうやら犯人は悪霊らしい、みたいな既視感まんてんな話になっている。

ところで、読んでいてそれほどいらいらはしなかったけれど、ちょっと気色悪く感じるのはどうして? 小さいころいじめられているのをよく助けてもらったことがきっかけらしいけれど、主人公が男っぽい性格である菜摘(高校1年生、正直の妹)のことが好きであるとか、悪魔がハンサムな(?)高校生くらいの青年ふうであるとか、そのせいで主人公が中途半端に若干、女役を演じているからかな。そう、もちろんストーリーの都合上だけれど、岳斗と一緒に、1話目では悪霊にとり憑かれているらしい戸田女史(T大院生)の部屋に、2話目では拉致されてしまったらしい菜摘の部屋に侵入している。女性の部屋に入るというのは、この場合、男子読者の好奇心に応えるというよりも、微妙に“女の子になりたい願望”からなのかな?(違うか)。あと、子ども向けなライトノベル(たぶん)だからしかたがないとは思うけれど、主人公は本好きな性格であるわりに、発言や思考内容から判断して精神年齢が低いというか、幼稚であるとも思う。こんな浅い思考しかできていなくて(←人のことは言えないけれど(汗))、志望しているのが、国立最難関であるところのT大学、っていうのは、どうなんざんしょ? 舞台が本郷のあたりに集中しているから、その流れでそうなのかもしれないけれど、常識的に考えてちょっと無茶な設定をしてくれているよね。予備校でも家でもアルバイトのあいまでも死ぬ気で勉強していただきたい。さもなければ、5浪くらいする覚悟が欲しいです。でも、そう、こういう主人公は友達にするなら、けっこうよい相手であるような。正直がいい人なだけでなく、主人公もいい人である(たぶん)。

受験がらみのことをもう少し。現役のとき(といっても、まだ春なのでついこの前?)の不合格は、世界史以外のセンター試験での失敗が原因らしい。どこかにT大を受験した、とも書かれていたと思うので、センター(1次)では足切りされず、2次試験はいちおう受けることができたのかもしれない(あるいは、作者の頭の中には足切りの概念がないのかもしれない)。国立だけではなく私立も受けて(落ちて)いるらしい。通っている予備校は、水道橋にあるらしい(何で通っているのか書かれていたっけ? 読み直さないとわからないな。徒歩?)。アルバイト代は予備校代になっているらしい。小説家志望で(T大の)学部は文学部志望とのこと。作家になりたいのならW大くらいでいいのにね、どうしてT大?(わからんです)。勉強は数学が苦手と言っている(世界史はできるらしいから、典型的な文系アタマ?)。家はいまどき珍しい賄いつきの下宿屋(「弓町ハウス」、母親の由希子が食事を作っている)。入居者には社会人や大学生だけでなく、予備校生もいるらしいけれど、交流はないのかな?(歳が近いだろうにね)。登場しているのは大学院生の戸田のみ。

話が戻ってしまうけれど、やっぱりまがりなりにも古本屋の仕事をしていて、本好きであるというなら、もっと古書に関する薀蓄を披露してくれてもよさそうな気がするし、近代的なところとしてではなく、明治や江戸につながるような東京を舞台としているなら、表現(語彙など)にそれらしい工夫があってもいいような。文体と内容との落差(?)から主人公が幼稚に感じるのかな?(わからん)。あと、そういえば、どうでもいいけれど、岳斗くんのしっぽってふだんはどうなっているの? 服の上からは目立たない感じなのか、それとも人間に姿を変えた時点で消えちゃうのか(というか、どこかに書かれていたかもしれない)。
 
 
[追記(2016.03.09)] 現在、電子書籍で読めるようだ。→檜原まり子『本郷懐古堂奇譚 1』(2016)。1ということは、続編もあるのか...。いまだに紙の本しか読んでいないので(泣)。
 

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