河出書房新社、1982。小説としては面白かったです。意外にけっこうな名作? 北海道は札幌の自然・季節とかが色鮮やかな感じで(映像化しやすそう)、初出は文芸誌らしいけれど、大衆小説(エンタメ系小説)寄りの文体には、なんていうか“力”(“生命力”と言えばいいのか)がある感じで。――でも、性欲、性欲な主人公に対しては、あんたさー、みたいなこと(?)は思ってしまう、読んでいて頭の中でツッコみまくりでした(汗)。※以下、ミステリではないですが、かなりのネタバレしているので、ご注意ください。どうしようかな、2部構成になっているのだけれど、とりあえず別々にあらすじなどを。

「第一部 地吹雪」(初出:『文藝』1980年10月)
“活字拾い”として印刷工場で働きながら、夜、予備校に通う主人公の耕次(実家は貧しい畑作農家)は、自分の性欲に悩むのではなく(いちおう悩んではいるのか)それを向ける矛先のなさに焦っている感じ。高校の同級生で苫小牧の書店で働く彼女(千絵)は、手紙で受験勉強の応援をするばかりで、要するにやらせてくれない。そんなときねらいを定めたというか、耕次が手を出すことになるのが、新しく下宿しはじめた家の娘――2人姉妹の妹のほうで、名前は真砂子。短大卒で洋装店に勤めていて、旭川で高校教師をしている彼氏(婚約者)がいる。最初はむりやりな感じで、そのあとは両親や姉の目を盗んで2階の娘の部屋で、または近くの公園でやりまくりな感じ。←いや、だから主人公に対しては「あの、キミねぇ…」とか思うけれど。なにせ「光の束」が腰のあたりに集まってしまうのだからしかたがない?(なんじゃそりゃ…)。しかも、ネタバレしてしまうけれど、この小説も「妊娠小説かよ!」であるけれど、極めつけは1度子どもを堕したあと、その娘をもう1度妊娠させていること(ちょっとびっくり)。もしかしたら“妊娠小説”としても貴重な1品かも。最後はその娘というか真砂子が睡眠薬を多量に飲んで自殺をはかる、みたいな(小説とかTVドラマとかに)よくありそうな感じの終わり。主人公の心理もあまり書かれていないのだけれど(しゃべるとけっこう軽々しいのだけれど、基本的に口数が少ない感じ)、ちゃんとした婚約者のいる真砂子さんの気持ちがよくわからないな…。相手のやりたいようにやられていて(もう少し言葉を選んだほうがいいか(汗))耕次と同じ種類の性欲に突き動かされている、というわけでもないだろうし。耕次くんが好きであるにしても、その理由はいちど考え直したほうがよかったかもね。主人公に対しては同情ができるかな…、無理か。女癖が悪かったらしい父親の血を引いているとか、はあるみたいだけれど。

「第二部 雪虫」(『文藝』1982年2月)
「第一部」と似た話(構成も似ている?)だけれど、そこで描かれていない部分を補足している感じ(例えば職場のこととか、家族のこととか)。これもひと言でいえば“妊娠小説”。「第一部」の翌年の話で、今度は新しい下宿でそこの奥さん(高子)に手を出している。前年のようにやりまくりではなく、毎回拒まれて、でも、これで最後にするから、などと言いくるめてやっている。で、避妊のひの字も知らなそうな主人公の耕次に訪れる出来事といったら、当然、奥さんの妊娠(子宮外妊娠)。怒った旦那さんに殴られる殴られる。にもかかわらず、冷静に「あやまんないよ、おれ」(p.188)という台詞。――すごいのかすごくないのか、よくわからないな(汗)。でも、そんな、それどころではない状況でも東京へ大学(私立。三流大学?)を受けに行き、しかし、当然のことながら大学受験はそれほど甘くなく(?)試験ではぜんぜん問題が解けず、悲惨な感じに。最後の場面では苫小牧にいる彼女、千絵にも――いちど部屋で奥さんと重なっているところを見られているので、当然かもしれないけれど――ふられている。ただ、繰り返せば、こうしたストーリー自体が面白い小説ではないと思うけれど。ちなみに、奥さんには出張がちの夫のほかに3歳になる娘がいる。あと、こちらのほうの下宿には主人公のほかに2人の住人――彼女をよく連れ込んでいる「学生」(大学生)と、札幌の国立大学を受けるらしい3浪の「予備校生」がいる。

浪人生小説としては、主人公は“苦学浪人生”といえばそうかもしれないけれど、読んでいて思ったのは、他人から安易に「働きながら勉強しているなんてえらいわねぇ」とか言われることは、ちょっと嫌だね。プレッシャーになるからではなく(それもあるかな)、別に好きで印刷工場で働きながら勉強しているわけではないから。そう、最後まで読んで結局よくわからなかったのが、主人公が大学に入ろうとしている理由。“階級上昇”的な理由でもなさそうだし、“知”に憧れて、みたいなこと(中野孝次「雪ふる年よ」参照)でもない感じだし。大卒の人たちに対してあまりよい印象を抱いていない感じでもあるし。見返してやりたい、という理由もあまりないのでは?(でもあるのかな、わからない)。あと、職場でまわり(ほかの文選工)が高卒の人ばかりであると、大学受験をしようとするだけで、1人浮いちゃうんだね。ふつうの受験生にはないだろう、そんな精神的な障害も乗り越えないといけないのか(うーん…)。家族もあまり協力的ではないというか、母親からの手紙の文面は、お金を送ってくれとか、帰って来て畑仕事をしろとか、そんな感じ。

季節は2篇(2部)とも初夏くらいから始まっている。予備校は6時から9時までらしい(いわゆる「夜間部」?)。浪人生小説としてはパターンだけれど、この小説でもけっこうさぼっている感じ。行っても途中で帰ってきてしまったり。さぼってどこへ行くかといえば、ススキノ近し(?)オデン屋とか赤提灯とかに飲みに。勉強は英語と数学がよく出てくるかな、あとは古文だけ(?)。そう、作中年がこれまた、自分の歴史的な知識がないせいでわからない(涙)、沖縄の最初の知事が誕生したのっていつ? 沖縄返還・本土復帰と同じ年(1971年)でいいの? それよりも前?後? ちなみに作者は昭和12年(1937年)生まれらしい。世代的には作家でいえば大江健三郎(1935-)やなんかと同じくらいか。で、結局、この小説も、真面目にこつこつと受験勉強をしている浪人生には勧められないかな…。微妙です。でも、こんな破滅的な青春小説(?)を怖いもの見たさで読んでみるのも、一興かな。
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索