同じ作者の、浪人生が出てくる小説はほかにもあるかもしれないけれど、とりあえず3篇とりあげておきます。※以下、ネタバレ注意です、すみません。

「日本が眠った日」(『カンタン形』CBSソニー出版、1979/角川文庫、1982。*9篇中の7篇目。)
けっこう面白かったです。タイトルとは逆に日本中が眠らなくなる。「眠らなくなる」ということは“夜”がなくなること? 子持ちの夫婦が営みに困ったり、泥棒が困ったり。睡眠時間がゼロになると、いわゆる受験競争/戦争は激化するものらしい(うーん…)。3人称複数視点の小説なので、主人公とは言えないかもしれないけれど、登場人物の1人が浪人生。小説の冒頭は次のように始まっている。

 <敏彦は浪人二年生。地方から出てきて東京に下宿している。深夜の三時まで“パック”なんとかいう深夜放送を聞いてから眠る。ところがその晩はちがっていた。(略)>(文庫、p.203)

個人的にはぴんと来ないけれど、受験生といえばやっぱりラジオの深夜放送? 「パック・イン・ミュージック」……作家の川上弘美(1958-)は投稿して景品をもらったことがあるらしい。姫野カオルコ(1958-)の小説『終業式』では、高校3年生(受験生)の2人が「セイ・ヤング」に投稿している(作中には「オール・ナイト・ニッポン」の名前も出てくる)。受験生にとっての深夜放送が下火になるのは、いつくらいから?(私にはわからない)。ちなみに「その晩」というのは、198X年6月10日のこと(正確には日付が替わって11日か)。そういえば、矛盾はしていないかもしれないけれど、あとのほうで(眠らなくなる前の)睡眠時間は8時間、と書かれていて、午前3時に寝ているのだから、起床は午前11時になってしまう。予備校には午後からの出席しているの? 敏彦くん、志望は医学部らしい。書かれてはいなかったと思うけれど、父親は医者かもしれない。お金には困っていない感じ(アパートの隣の部屋のカップル――万年大学生とホステス――の、なんていうか、やっている音、が勉強のさまたげになるということで、父親に言ってアパートから1DKのマンションに引っ越している)。ネタバレしてしまうけれど、最後3年後になっていて、敏彦はまだ浪人生のまま(5浪?)。そういえば、「(和文英訳の)難問集」という言葉が出てくる。「難問集」というのは、ちょっと古めかしい感じがする。しないですか?(あとがきに書かれているけれど、作者は1933年生まれ)。

「不思議の国のマドンナ」(同。*8篇目。)
最後まで読むと、取りあげる必要はなかったかなとも思ったけれど、一応。予備校生の次郎はいつも電車(小田急線)で乗り合わせる女の子のことが好きで、口をきくまでにだいぶ時間がかかったりしたけれど(2ヶ月)、その子=碓氷有美香(高校2年生)とスケートのデートに。そのさわやか青春恋愛ストーリーな(?)次郎の世界を「不思議の国」のジロは夢としてみている……。最後はなんていうか、個人的にはちょっとついていけないというか、えー!?という感じでした(説明になっていないか(汗))。

「窓鴉」(『イースター菌』CBSソニー出版、1979/角川文庫、1982。*6篇中の1篇目。)
瀬名秀明編『贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに』(光文社、2002/光文社文庫、2006)というアンソロジー本でも読めて、いま手元にあるのはそれ(の文庫のほう)です。おすすめというか、とても面白かったです。「ぼく」が予備校の宿題でエドガー・アラン・ポーの詩‘The Raven’(「大鴉」)を訳していると(予備校はそんな宿題は出さないと思うけれど)、部屋の窓ガラスのなかに烏が現れる。で、なんというか、その「窓鴉」はいろいろな意味ですごい存在で、「ぼく」に勉強を教えてくれたり、恋愛の相談にも乗ってくれたりする。――ひと言でいえば“青春恋愛小説”かな、やっぱり。恋愛についてはだいぶ一方的な感じだけれど。

 <予備校に入って三か月目に、総合学力テストがあった。その成績で、志望校別、成績別の組分けがある。ぼくの入った組に彼女がいたのだ。>(p.85)

「彼女」の名前は、依光麗奈(よりみつ・れいな)。実際、↑みたいに入ってから組が「編成」される予備校ってあるの?(ありそうな感じはするけれど)。舞台は東京だっけ? 予備校は高台にあるらしい(教室が6階らしいので、校舎は推定6階以上)。主人公(の設定)はどうなのかな、浪人生っぽいといえば浪人生っぽいかもしれない。英詩の和訳についてもハテナだけれど、ほかにも、「ぼく」は買ってもらって「ランダムハウスの大英和辞典」を持っているらしい。――大学受験生には不要な大型辞典だよね、たぶん。ただ、そういう細かいところはつっこめるかもしれないけれど、全体としては(浪人生小説としても)おすすめであると思う。窓鴉のアドバイスを受けながら、最後、いちおう成長している感じになっているからかな(“成長小説”万歳!?)。あと、同じ本の中で編者が、式貴士のSFについて、「エロ・グロのなかに時折り現れる、おそらく作者の根っこであろう過剰なほどのペダンティズムとセンチメンタリズムがたまらないのです」(p.26)と書いている、けれど、ペダンティックというか、この短篇に関しては(E.A.ポー以外にも)英米文学を踏まえていたり、それからのちょっとした引用があったりして、個人的には(あらかた忘れてしまったけれど、大学のときに一応勉強しているので)ちょっとうれしい感じ。関係ないけれど、オチにも関係していくことで、「ぼく」はバイク(ホンダXL125S)に乗っている。小説中の浪人生のバイク乗車率はやっぱり高い。
 

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