原作(脚本)・中園健司。TVドラマをノベライズした短篇集『世にも奇妙な物語8』(OHTA NOVELS、1991)に収録されている1篇。7篇中の4篇目(7篇目だけは作者のオリジナル小説)。いまでもときどき放送されているけれど、『世にも奇妙な物語』(オムニバス形式のドラマ、フジテレビ系)って、1本あたりの時間はどれくらいだったっけ? 数十分? 短いものでは十数分くらいかな。※以下、ネタバレご注意です、すみません。

文章・文体は“1人称饒舌体”といった感じ。読みやすくてよかったけれど、でも、ちょっと短すぎるかな。なのに、途中、なかだるみしているような…。最後のオチもちょっと弱い気が。でも、全体的には、意外と面白かったです。内容は、予備校生で1浪の「オレ」(高田修平)は家族から…なんていうか“バカ”扱いされている。お兄さんは東大生、妹は受験の心配のいらない私立高校3年生、両親もいいところの大学卒……。家のなかで肩身が狭かったり、居場所がなかったりするのは、受験生としてはつらいやね。成績的にバカ(というか)であることは本人も認めていて、模試での結果とかもよろしくない。そんなある日(秋)、路地のすき間に怪しげな(?)占い屋が出ていて、そこのおじいさん占い師から、140億個の脳細胞がフル回転するというヘアバンドをもらう、みたいな話。“天才”になったことで、家族や、予備校の講師やほかの生徒たちから見直されるというか、ちやほやされるというか。本人も、そこのけそこのけ天才が通る(?)みたいな気分に。そして、でも、最後にしっぺ返し的なオチが待っている、といった感じ。

自分も予備校に通っているとき、何かの授業が1つ終わって、近くの席の女の子が「あー、どこかに頭のよくなる薬、売ってないかな」とつぶやくのを聞いたことがあって(実話です)、なんていうか、ある種の願望充足的なお話になっている、のかも。こういうのは受験にかぎらないか、たぶんときどき誰しもが思う、例えば「ドラえもんがいたら」みたいな? そう、その占い師はそのヘア・バンドを「仮にエジソン・バンドと名づけよう」(p.112、上段)と言っているのだけれど、「エジソン・バンド」という商品って、実在していなかったっけ? どこかで聞いたことがあるような…(思い出せない)。作中には数学の問題と解答が出てくる、というか、「オレ」は数学の問題を解いているのだけれど、やっぱり頭がいい、というと数学が得意、みたいなイメージなのかな。主人公の志望は文系なのに。志望大学・学部はもともと私立文系っぽくて、ヘアバンドを手に入れてからは、東大文科一類? 

関係ないけれど、似た偏差値の私立大学をグルーピングした“日東駒専”、“大東亜帝国”なんかは、何か本などを読んでいたりするとたまに見かけるし、(この小説には出てこないけれど)“関関同立”とか“MARCH”というのも見かけるけれど、今回“JAL”というのは初めて目にしたな。「上智・青山学院・立教」であると、後ろの2つはMARCHとかぶっているのか。あと、これも細かいところだけれど、ちょっとおもしろいなと思ったのは、ジンクスというか縁起担ぎというか。「オレ」は、煙草の箱を開けるときに(1浪なら本当は吸ったらダメだろうけれど、それはそれとして)「入」となっているほうを破らずに、「人」となっているほうを破るらしい。大学に学(合格)できなくなるから、みたいな。――私は初めて聞いたのだけれど、受験生で同じことを実行している人はけっこういるのかな? 

(あ、ジンクスで思い出した。以前読んでいた小説……なんだっけ? ――山口雅也『続・垂里冴子のお見合いと推理』か。そのなかで表札を4軒ぶんとると、“試験(しけん)に通る”みたいなおまじない(?)がある、みたいなことが書かれていたと思うけれど(売ってはいないけれど、本がどこかに行ってしまったです(涙))、この前、最相葉月著『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社、2007)という、いろいろな賞をとったらしい評伝本を図書館から借りて読んでいたら、星新一は実際に盗まれたことがあるらしい、家の表札を。バリエーションというか、4軒ではなく、尊敬する人の家の表札を手に入れると合格する、みたいなことになっていて、それだと全然だじゃれになっていないよね、それでもいいの?)

これも細かいところだけれど、最初のあたりで、「オレ」は、もちろん冗談で両親に対して「金属バットをふりまわすぞ」(p.104、下段)と言っているのだけれど、例の事件っていつあったんだっけ? ――1980年か。私は生まれてはいるけれど、よく知らなくてあたりまえな歳かな。ちなみに、作者は1963年生まれらしい。

今回も話がまとまらないな。まぁいいか(汗)。――以下、“ヘアバンド”についてもう少し。もちろん、“日東駒専”志望くらいの人が、すぐに東大を受験できるほどの学力が得られるわけはないと思うけれど、その手のちょっとあやしげな商品は、かなり昔からあるんだよね。竹内洋著『立志・苦学・出世』(講談現代新書、1991)という本には――ちょっと引用してみると、

 <(略)。受験雑誌には、いかにして記憶力を鍛錬するかの記事がしばしば掲載されたし、記憶力をよくする薬や器具の広告も多かった。「記憶力増進丸」とか「胃腸蠕動器」とかがこれである。後者はヘアバンドみたいなものであるが、神経と血行をよくし記憶力を増進すると書かれてある。>(p.122)

これが大正くらいの話。「胃腸蠕動(ぜんどう)器」ってすごい名前だな(汗)。科学的、医学的にはちゃんと理屈が通っているの? 外側から頭部を刺激して頭脳を活性化させる、とかではなくて、いったん胃や腸を蠕動させて全身の血行をよくして、脳も、みたいなことなのか(へぇ〜)。林真理子の『本を読む女』(新潮社、1990/新潮文庫、1993)という小説では、普通名詞というか一般名称として「頭脳ベルト」という言葉が使われている。――これもちゃんと引用しておいたほうがいいかな。主人公の小川万亀(まき)は上京して神田にある、受験生向けの通信添削をしている出版社(「蛍学社」)に勤めている。

 <雑誌と一緒に、頭脳ベルトも売り出したらどうかという案も本気で討議されていた。なんでもこのベルトを頭に巻くと、とたんに記憶力がよくなるのだそうだ。>(文庫、pp.187-8)

戦争の影響で紙の統制が噂されている頃(昭和十何年か、10年代の後半)。作者の母親がモデルになっているらしいのだけれど、作者は絶対に何か資料を見て書いているはずで、その点(事実関係というかは)あまり面白くないと思うけれど、それはともかく。頭脳というか記憶力が、本当に“とたんに”よくなったりするのかな?(胃腸は関係なしか?)。いずれにしても、出版社がそんな商品を扱うようになったら出版社じゃなくなっちゃうよね(汗)。

あと、薬に関しては、自分が実際に浪人しているとき、知り合いと話していて、私が「チ○ビタとかリ○ビタンDを飲んでいる」みたいなことを言ったら、ドリンク剤よりも錠剤を飲んだほうがいいよ、そのほうが効き目が持続するから、みたいなアドバイス(?)をもらったことがあるのだけれど、そういうのもどうなのかな、医学的な(?)事実はともかく、その手の会話をすること自体がなんとなく、浪人生である自分とっては、苛立ちの原因の1つになっていたような…。
 

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