「めであいづき」と読むらしい『愛逢い月』(集英社、1994/集英社文庫、1997)所収。6篇中の2篇目。初めて読んだけれど、篠田節子って意外に面白いな。“浪人”とはぜんぜん関係ない短篇だけれど、最初のへんで、入院しているらしい主人公(菜穂子)が次のように言われている。

 <「ママ、僕、受かったよ。第一志望の大学。二浪しないで済んだ」>(p.29、文庫)

親への合格報告で「2浪しないで済んだ」みたいなことって言うかな、ふつう? ――言うか別に。日ごろから親に現状(=浪人生活)への不満をもらしていたのかもしれないし。あと、「ママ」とか言われると(それがいけないわけではないけれど)19歳くらいであるはずの息子が、けっこう幼く感じてしまうな。そうでもない? あ、「ママ」にかぎらないか話か、これは。曽野綾子『太郎物語 高校編』(1973)には、息子の次のようなセリフがある。

 <「ねえ。ねえ。母さん。僕一年浪人するからね。その間、あんまり邪魔者扱いにしないでうちに置いてくれる? さもないと僕、首つっちゃうよ」>(p.223、新潮文庫(三十一刷改版))

「ママ」ではなく「母さん」。太郎くん、かわいらしい感じだけれど、でも、もう高校生だから…。母親目線であるからちょっと幼く感じてしまうのかも。これが同じ息子を描いたものでも、父親目線だったりすると変わってくるような気が。ちなみに、この受験生の息子は結局、浪人しないで済んでいる。

話を戻して。息子目線でいえば、浪人中は母親が入院したまま、大学に受かったと思ったら死んでしまうわけだから、ちょっと大変というか、少し同情してしまうというか。しかもこのお母さん、亡くなる前に父親とは違う男性の名前を口に出したりしているし。そう、このあまりよく描かれていない旦那さんは、息子に対してはいい人なのかな?

(同じ本(『愛逢い月』)の6篇目、「内助」という短篇は、主人公の30歳近くになる夫が10年も続けてきた司法浪人をドロップアウトする話。個人的には、司法浪人生に対してはあまり興味がないのだけれど、これも意外と面白かったです。)
 

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