これも全集みたいなものに収録されているかもしれないけれど、手もとにあるのは『ホーム・パーティー』(新潮社、1987/新潮文庫、1990)の文庫のほうで、その4篇中の1篇目。最後がちょっと嫌だったかな、この小説。なんとなくもっと明るい終わり方をするのかと想像していたから。中学2年生の女の子(矢木典子、13歳)の目から見た、学校の教師や同級生、家族、家の下宿人、家の近所(移りゆく東京というか)などが描かれている。本の後ろの「解説」(アルバート・ノヴィック)に、<「予習時間」は高層ビルのまだ少ない昭和二十九年頃の話で(略)>(p.204)と書かれているのだけれど、どこを根拠にして昭和29年と言っているのか、歴史オンチのせいか私にはさっぱりわからない。下宿人の原田のところに出入りしている高校のときの同級生、三輪が、典子の兄に対して、<「昇よ、あと二年で赤線がなくなるから、今のうちに連れてってやろうか」>(p.18)と言っているので、1956年=昭和31年? 同じ作者による「雲とブラウス」(単行本『樹下の家族』などに所収)という、高校生が主人公の小説に、<「(略)。売春防止法実施一九五八年。廓[くるわ]へ一九[イク]のも五八[コンヤ]かぎり、廓知らずのわが世代と覚えるの。試験には出ないだろうけど」>([括弧]は原文ルビ)とあるから(すごい覚え方だな。というか、この作者の言語センスにはいまいちついていけない(涙))、1958年から2年を引いて1956年……で、間違っているのかな? あ、赤線が消える=売春防止法実施、ではないとか?(わからんです(涙))。でも、いま読むとすれば、昭和29年よりも昭和31年のほうが、いまだにゆるく続いている(?)映画『ALWAYS・三丁目の夕日』に始まる“昭和30年代ブーム”と微妙にかぶさる感じでよいかもしれない。作中年はどちらにせよ、東京と縁もゆかりもない私が読んでも、けっこう懐かしい感じがするので(冒頭なんて、かつて広く愛されていた英語の教科書、ジャック&ベティの一節から始まっているし)、そういう関心からも読めるかもしれない。もちろん、短篇小説なので短いけれど。――話を戻して。家は「住宅金融公庫」からお金を借りていて、それを返すために下宿をしているのだけれど、下宿人の1人、原田が浪人生。

 <原田は六畳間に下宿してから三回大学を受験したが、まだ浪人だ。去年九州から出てきて同居するようになった操は、探偵小説ばかり読んでいる兄を心配している。「早稲田にこだわるんですもの。プライドばかり高くて」と典子の母親に言う。同級生の三輪は、もう早稲田演劇科の三年生だ。>(p.17)

要するにこの人は何浪? 下宿暮らしを始めてから3度受験に失敗している、ということは、4浪かな。その場合、高校の同級生の三輪は1浪か1留していないといけないけれど。それとも、現役のとき、大学を受験する前から東京に住み始めてしまって、3浪とか。素人下宿であれ、妹(洋裁学校へ通っている)といちおう2人で暮らしている浪人生、というのはちょっと珍しいかな(あ、小説の話です)。原田にたかっている(?)三輪によれば、<原田の実家は旧家で金持ち>(p.32)とのことで、妹の操によれば<お兄ちゃんのお尻を叩くために>(p.34)親が彼女を上京させたらしい。親が原田(兄)のことをどう思っているのかわからないけれど、経済的には恵まれている感じ、かな。でも、1955年前後の早稲田大学って(1970年以降と較べて)入るのがそれほど難しくはなかったのではないかと思うけれど(そうでもなかった?)、であれば、3浪以上しても入れないというのは、よほど勉強していないかなんなのか、この人。うーん…。ちなみに、下宿人には原田兄妹のほかに、早稲田の法学部の学生が1人いるらしい(帰省していて名前が出てこない)。あ、家があるのは、

 <二人の家[=典子と同級生のカオルの家(引用者注)]は、西武新宿線の井荻駅と中央線の荻窪駅方向とを結ぶ、環状八号線のバス通りを挟んで筋向いに面していた。>(p.8)

といった感じの場所。
 

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