『アタシはジュース』(TOKYO FM出版、1995/集英社文庫、1996)所収、4篇中の4篇目。予想していたよりは面白かったです。現状に行きまづっている主人公が、きっかけを与えられて立ち直っていくというか、結果として現状が打破される、みたいな話かな。文章(文体)はちょっと軽い感じだけれど(何か映画とかのノベライゼーションっぽい感じもする)、明るくて個人的には嫌いではないです、こういう小説。※以下いつものようにネタバレにはご注意ください。

6浪めの6月、道を歩いていた「オレ」は女性から声をかけられ「人間レンタル」の会社にスカウトされる。――多浪であるとやっぱり、ちょっと漫画っぽくなっちゃうよな。「6浪」って勉三さん(from『キテレツ大百科』)にも匹敵してしまうし。どうでもいいことだけれど、おもいっきり某予備校、の生徒が出てくる小説は今回、初めて読んだと思う。

 <「村上さとる。二十四歳。駿台予備校午前部文科?類六年生。東京都三鷹市在住。両親健在。賞罰なし。悪いけどキミの経歴はあらかじめ調べさせていただいたわ。(略)」>(p.142、文庫)

この予備校、90年代半ばくらいには「午前部/午後部」という分け方はもう、なかったのではないかと思うけれど、それはそれとして。「人間レンタル」は要するに演じるわけだから、研修(?)は演劇の訓練みたいな感じになっていて、村上くんは、声をかけてきた女性、一瀬薫(「有限会社東京ハッピネス・クリエイティブ」の理事)から、下北沢にある会社の入っている雑居ビルの屋上で、≪おたけび≫というのをやらされている。

 <「ボ、ボクはス、駿台予備校の……」/「声が小さい!」/「ボ、ボクはス、駿台予備校の……」/「声が小さい!」/「ボ、ボクはス、駿台予備校の……」/「声が小さい!」>(p.156)

「養老の滝」にしてもユーミンのコンサートにしても、登場人物たち(例えば慶応大生の夏目忠やレンタル依頼者の桜田育代)にしても、肯定しているのか否定しているのよくわからない小説だけれど、↑この某予備校に対してもそんな感じかな。読者への宣伝になっているようななっていないような…。というか、なっていないか(汗)。何度も落ちて6浪なわけだし、主人公は(先のほうを書きすぎてしまうけれど)人間レンタルをやめてから、後期は授業料を払えなくて除籍されたと言っているし。6浪めが決まって親からは学費は出さないと宣告された、ってそれは当然だよね、むしろ親はよく5浪めまで面倒を見たよ(汗)。でも、予備校のほうも、生徒が不真面目で落ちたとか、高望みをしすぎて落ちたとか、そういう理由でなければ、4浪めくらいから無料にしてあげるとか何かフォローしてあげればいいのにね。関係ないけれど、あと、<駿台予備校は席順は成績で決まる。>(p.195)と「オレ」は語っているけれど、この小説が出版された当時くらいまでかな、たしかいまは違うんじゃなかったっけ?(よく知らんけど)。

そういえば(これもどうでもいいことだけれど)、2浪のときに付き合っていた元彼女(当時1浪、現在上智大学4年生)の名前が、川上さとみ。「村上さとる」と「川上さとみ」って、どうしてそんなに似た名前を…? 固有名詞とかってどうも気になってしまうな、集中して読んでいないからかな。その彼女と最初の仕事(?)のときに再会するのだけれど、3年以上も主人公のことを好きでいてくれた大学生ってどう? そんなけなげな女の子はあまりないような…。でも、村上くんのほうが、大学に受かった彼女の前から勝手に去ってしまったみたいだから、彼女=川上さんのほうに未練があっても不思議ではないか。

彼女も戻ってきた感じになって、レンタル人間(「クリエイター」)をやめてから“宅浪”として勉強に集中し始めるのだけれど、勉強方法が…、これはちょっと真似できないかな。まず、日本史・地理・生物などの暗記科目は頭に入っているから勉強せず(うらやましいやね)、英語と数学だけを勉強し始める。その2教科の勉強のしかたも個人的にはちょっとどうかな…と思う。その前に、6回も受験に失敗している理由はなんだっけ? 例によって小説にありがちな「本番に弱い」とかか。この小説では「オレ」は、それは思い込み、言い訳だったみたいな反省をしているけれど。――で、ネタバレしてしまうけれど、東北大学文学部に合格。そう、合格電報(というあたりも90年代な感じがしないけれど)が、<「ミチノクニ サクラサク」>(p.206)というのは、意外とふつうだな、東北大学。

はい、今回の教訓――。勉強にいきづまって、人生にもいきづまってしまっている多浪の人は、意外とアルバイトを始めてみるとか、劇団員になってみるとかすると、人生が開けてくる?

(ちなみに、同書の2篇目「体育館少女」では、浪人生ではないけれど、高校を卒業して3ヶ月、何もしていない感じの女の子が語り手兼主人公。)
 

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