文藝春秋、1980/文春文庫、1983。ユーモアというか面白さはあるけれど、冗長というか話が長いというか。読むのにいつも以上に時間が……。あと、文庫の帯(古本屋本なのに付いていた)に、<すべての受験生諸君と/かつて受験生だったあなたに/捧げる井上ひさしの/青春オモシロ小説>とあるけれど(文字のサイズ・太さは均した)、別に“大学受験”が主題になっている小説ではないです。※以下、いつものように内容にまで踏み込んでますので、お読みでない方は毎度すみません、ご注意ください。

 <東大コンプレックス嵩じて強度の吃音症に陥った主人公・小松青年は、転地療養をかね郷里・花石に帰省する。東北一の製鉄所(本書ではしぇーてつそと発音する)のある町を舞台に、焼鳥屋の屋台をまもる逞しい母、鉄材泥棒の偽東大生、薄幸ながら心優しい娼婦かおりらが織りなす、笑いと涙の心温まる青春小説。 解説・川本三郎>(表紙カバー後ろより。「しぇーてつそ」「かおり」に原文傍点)

小説は7月下旬、小松夏夫が花石駅(岩手県)に向う列車に乗っている場面から始まっている。登場人物は↑のほかにも面白い人たちが出てきて(岩館老人や鶏先生、マドロス先生など)、夏夫の精神由来の吃音症は、そうした人たちと交わることで(良くなったり悪くなったりするけれど、最終的には)快復していく感じ。↑「東大コンプレックス」とあるけれど、主人公の小松夏夫は、銀杏を校章とする大学(=東大)だけでなく、稲穂やペンのぶっちがいの大学も受けて落ちていて、鷲のマークの大学に通っている。なので劣等感というかは、稲穂やペンのぶっちがいに対しても持っている感じ。「偽東大生」というのは、ネタバレしてしまうけれど、自転車をゆっくりこいで銀杏のバッチを見せびらかすような振る舞いをしていた、焼鳥(モツ串)がこの町でいちばんおいしいらしい屋台(「徳寿」)の息子のこと。夏夫が船に積み込まれる“カマボコ”(銑鉄)の本数を数えるアルバイトをしているときに、その息子がカマボコ泥棒をしているところを見つけ、なぜ盗んだのかきくと、本当は東大生ではないことや、カマボコは売って授業料にしていることなどをうちあける。――住み込みで新聞配達をしている仮面浪人生って、「ニセ学生」と聞いてふつう想像するそれとはちょっとずれている感じ?

 <母親には<銀杏・授業料低額、学生寮・日本育英会・岩手有為会>の線で振舞っている。だが実体は<桜・授業高額・新聞専売所・日本育英会なし・岩手有為会なし>である。そして後者の実像から前者の虚像を差し引くと差額が出る。別に言うと<授業料高額>だけがそっくり残る。>(p.129)

高校を卒業する前(2年前)に父親が亡くなって、それから春になると毎回、東大を受けているらしい(2年前が現役なら、いま2浪?)。この人(名前は後藤秀一)も、遠藤周作「ニセ学生」(『怪奇小説集』)と同じで、苦労している母親に嘘をついているのか…(家族に迷惑をかけられないからとか、家族を喜ばせたいからというのは、ニセ学生誕生のパターン?)。面白ければそれでいいのかもしれないけれど、↑は引いても意味がないというか、そもそも引けないよね(汗)。実像をそのまま残して、虚像をただ消し去ればいいのかな?(それも意味がないか(汗))。桜をやめずにいる理由も書かれているけれど、それはまぁいいか(ちょっとあきれる感じだけれど、ま、憎めないかな)。そう、夏夫は鷲と桜をどっこいどっこい、と考えているみたいだけれど、いまなら(いつごろからかわからないけれど)やっぱり、桜(=日本大学)よりは鷲(=上智大学)のほうがよい、というイメージが一般にはある、のかな(よく知らんけど)。作中年は――昭和28年(1953年)でいいのか、夏夫が受けたドイツ哲学科は、なんと(?)定員割れを起こしていたらしい(募集が20名、受験者が18名だったとのこと)。いまの上智大学では考えられないこと?

今回もまた周辺的なことばかり書いてしまった気がする(汗)。内容的なことでは、えーと、屋台(「花石屋」)を始めてそれを体を張って守ったりする、ちょっとクールなお母さんのこととか、トラブルでアルバイトをすぐに首になって、バイト先を転々としてしまうこと(自立していく過程)とか、もちろん(?)読んでいて面白かったです。
 
 
[追記(2015/02/09)]よくわからないけれど、「桜」は日本大学ではなくて学習院大学のこと? ネットで検索して見てみると、確かに学習院の校章のほうが桜な感じかもしれない。何か井上ひさしのほかの本(エッセイとか)を読めばわかるのかな?
 

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