新潮社、2003/新潮文庫(上下巻)、2006。これはとてもおすすめです、“浪人生小説”としても。2年くらい前に1度読んであったのだけれど、オチ(?)もわかっているし、なかなか読み直す気になれなくて…。とりあえず今回、上巻(手もとにあるのは文庫のほう)の途中まで再読。※毎度すみません、以下、ネタバレ注意です。

 <秀明はやや軽めの明るい浪人生。明るいといっても二浪目に突入したのだから、多少の屈託もないわけではない。しかし、女子大生の彼女もちゃんといて、携帯メールを間断なくやりとりして、にやけてみたり、ふて腐れてみたり……。受験の年の元日の未明、秀明の身体を異変が襲った。胃を握り潰されるかのような激しい吐き気、強烈な圧迫感。それは底なしの恐怖の序章に過ぎなかった。>(上巻の表紙カバー後ろより。)

2浪の予備校生、川島秀明のことを「あなた」と呼んで、彼に“憑いている”らしい「私」が語っている1人称パート(あるいは2人称パート)と、ふつうにその秀明が主人公になっている(「私」は隠れた感じになっている)3人称パートが、章(節)がわりで交互に配されて、平行して進んでいくような小説。いずれにしても秀明が視点人物になっている。ジャンルとしてはよくわからないけれど、「青春ホラー」であるらしい(上下巻帯と下巻のカバー背に使われている言葉)。「やや軽め」というよりは「軽い」よね、「私」は「あなた」を「軽薄」とも言っている。2浪の1週間後くらいに冬期講習が始まるの時期、もう20歳にはなっている?(誕生日については書かれていたっけな――忘れちゃったよ)。個人的には、携帯電話(メール)や彼女(複数)が必需品であるような、いまどきの若者にはぜんぜん感情移入ができないな。秀明は大学生の彼女(美奈子)がいるのに、クリスマスに知り合った別の女の子(沙紀)とも付き合い始めている。クリスマスってもう試験がかなり近いのに…。大学に合格してからSキャラの音大大学院生、カンナが出てきて(この女性とも付き合い始めるわけだけど)多少かわいそうに感じることもあったけれど。でも最後(ネタバレしてしまうけれど)秀明ではなくてどうしてこの人が死んでしまうのか? みたいな…。世の中、不平等にできているよね(って違うか)。

同じ作者による『ライン』(推理小説、過去ログ参照)と同じで、浪人や大学受験に関する言及(特に心理描写)はとてもたくさんあって、あちこち引用したくなるのだけれど、とりあえずそれは我慢するとして。で、この小説のキーワードを1つ挙げろと言われたら、やっぱり「強迫観念(オブセッション)」になるかな。どういう文脈かは忘れてしまったけれど、本文中でもたしか1度使われていたと思う。浪人生は常に頭から受験勉強のことが離れない、みたいな心理(を描くのが、乃南アサはうまいよね)。この小説の場合には、本人は何に憑かれているのかわからないけれど、何かに憑かれている(そのことで頭がぼんやりしたりする)みたいなこともあるし、憑いている「私」のほうも“あなた依存症”みたいな感じであるし。

fight to the finish(闘い抜く)なんて熟語は、試験にでるのかな? ――そういう細かいところはいいか。そう、大学(第1志望は東工大だったのだけれど、早稲田大学の理工)に受かったときに、家族(両親と姉)がとても喜んでいるのが、なぜかとても印象に残っている。息子が受かったことを知って、お母さんは涙まで流している(!)。あ、でも、この家族にしてこの息子ありか、みたいなことはちょっと思ったけれどね、軽薄さの点でというか。あと(これはちょっと触れにくいのだけれど)、美作麻衣という2浪の女の子が出てくる。秀明は美作(みまさか)のことを女としては見ていなくて、友達のように感じている。<女で二浪は、さすがにあまり多くない。>(p.25)と本文中でも言われているけれど、2浪の女子浪人生が出てくる小説は、私はこれくらいでしか読んだことがない(買ったまま読んでないのだけれど、同じ作者の『風紋』にも出てくるっぽい)。ただ、1浪の女子でもそうなのだけれど、女子浪人生は小説では、女の子っぽく描かれないという傾向があって、この小説でもやっぱり(とりあえずは)そんな感じになっている。――少し引用しても大丈夫かな(このブログ、引用が多すぎ(涙))、

 <だぶだぶのスタジアムジャンパーは彼女の体型を完全に隠しているし、短い髪は量が多いのか、または太くて硬いのか、もっさりとしていて、まるでヘルメットでも被っているみたいな印象を与える。そして、サイズもデザインも合っていない眼鏡。小さい鼻。>(p.40、上巻)

現実問題、男の子よりは少ないかもしれないけれど、2浪の女の子も(絶対数としては)けっこういると思うのだけれど、どうなのかな? 彼氏(いれば)の前では、こざれた格好をするとしても、予備校に行く場合は上と似たり寄ったりな感じに? 別に2浪にかぎらないし、女の子にかぎらない話かな、これは。勉強が何よりも大事、みたいなことになれば、メガネなんて見えればいいんだ!とかね(違うか)。そう、自分が予備校に通っているとき、前髪を女の子が使うような髪留め(正式名称がわからん)で留めて授業を受けている男の子がいたけれど(10年以上も前、いまみたいに男の子が油とり紙なんて使わない頃の話です)、なんていうか、なりふりなんてかまっていられないやね。

去年・一昨年と大学に落ちた理由はなんだっけ? あ、受験校を絞りすぎたからとかか(本当にそれが理由で落ちたのか?)。家は東京で実家(家族と一緒)、予備校へは電車通学。早稲田の合格発表がほかの大学(東工大)の試験日と重なっているので、(合格電報ではなく)合格電話を頼んでいる。――そういうことよりも、浪人生の秀明が、道を歩いている現役受験生をどう見ているかとか、大学生の彼女(美奈子)のことをどう思っているか(逆に美奈子がどう思っているか)とか、たいした大学ではないと(主人公が考える)大学に通う友達をどう思っているかとか、あとは不合格(3浪)への不安とか、そういうことのほうが読んでいて面白いか。詳しいことは読んでください……と言ってしまうと、本の感想ブログとして意味がないか(涙)。(ぜんぜん関係ないけれど、この小説本(文庫のほう)は、上巻の終わりのところ(上・下巻の分冊のしかた)がちょっとうまいなと思う。上巻を読み終わった人は、下巻が早く読みたくなると思う。)

かくかように(?)今回もちゃんとした感想が書けていないけれど、個人的にはとても面白く読んだので(読んでいていらいらはするけれど)、おすすめはおすすめな小説です。『ライン』を“浪人生小説”として読んで(ふつうそんな読み方はしないか(汗))いまいちだったという人や、清水義範の『学問ノススメ』がちょっと古く感じるという人は、ためしにこちらを読んでみるといいかもしれない。
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索