小峰元 『ヘシオドスが種蒔きゃ鴉がほじくる』
2008年9月25日 読書講談社、1981/講談社文庫、1984。1篇ごとに殺人事件が起こって解決する感じの連作短篇集、全8篇。全篇を通して1人称1視点(「おれ」)で書かれているので、以前読んだ3人称複数視点の『ピタゴラス豆畑に死す』よりはずっと読みやすかったかな。でも、その小説と同じくこれもやっぱり中途半端に古い小説という感じ。“受験生小説”としてもちょっといまいちだったかも。小説としては意外に楽しく最後まで読めてしまったけれど。※推理小説なので、以下、いつも以上にネタバレにはご注意ください。毎度すみません。
<綽名を豪商という今泉、法王こと住永、画伯こと有村たちは、それぞれ国立大、防大、芸大を志望する、兵庫県立宝塚中央高校生。だが彼らの進学の難路と恋路の前に、奇怪極まりない連続殺人の難題が降って湧いた! 彼らを叱咤激励して解決へと導く豪傑バアチャンと共に謎に挑む、傑作大青春推理編。>(表紙カバー背より)
「おれ」=豪商=今泉顕晃(かねあき)、法王=住永弘道、画伯=有村隆文の青年3人組や、名探偵のバアチャン(「おれ」のお祖母さん)が暮らしているのは、「町」になっても農村の風景が残っている宝谷(たからだに)という場所。お父さんがわりと出てくるのだけれど、法王の父親は宝福寺というお寺の和尚さん(芳道(ほうどう)和尚)、画伯の父親は駐在さん、あと高校の同級生の季美子(苗字は…吉沢か)の父親は医者。……和尚以外はミステリーにとって都合のいい職業設定? 「おれ」のお父さんは中学校の英語教師らしい。家はイチゴ栽培農家で、バアチャン(とお母さん)はイチゴを育てている。小説でイチゴ栽培が描かれているのを、今回初めて読んだような気が…。微妙に新鮮かもしれない。登場人物としては、あと宝谷の住民ではないけれど、「おれ」が好意を寄せているというか、狙っている感じの充恵(苗字は浅野)という同級生なども出てくる。
で、ネタバレしてしまうけれど、最初(1篇目)が高校2年の大晦日から始まっていて、時間がとびとびで、最後の3篇(6~8篇目)が“浪人生編”になっている。5篇目(“受験本番編”というか)で、2人より入試日が早かった(防衛大だから)法王は早々と浪人が決定していて、画伯は奈良芸大(日本画科)に合格したけれど、奈良大学(経済学部)を受験した「おれ」も不合格に。続く6篇目に入ると、「おれ」&法王は、大阪梅田にある「科挙予備校」(すごいネーミングだな)に通っている。――いちおう5篇目から1篇ごとにとりあげておこうかな。
「旅は道づれ世は騙しあい」(5篇目)
「おれ」と画伯が一緒に試験を受けに行って、ホテルで事件(というか)に巻き込まれる。――3月1日に出発して(翌日下見をして)試験本番が3月3日か。ちょっと遅いよね? 合格発表が画伯が3月22日で、「おれ」が3月24日か。やっぱり遅いな。落ちてからでは予備校の申し込みが間に合わない(?)。この↓“受験パック”はどう、安い?
<新婚旅行でもないのに豪華なホテルに宿をとったのは、例の“受験パック”というやつだ。大学受験生にかぎり、一人部屋[シングル]・一泊二食に合格弁当つきで一万三千円、おまけに受験時間に合わせて大学までバスで送ってくれるというのだから、(略)>(p.180、[括弧]はルビ)
25年以上前の話、いま同じ金額ならかなりお徳か。豪華なホテル(「奈良インペリアル・ホテル」)だし、食事はフランス料理らしいし。送迎(「送」だけか)もうれしいやね。1万3千円だけでなく、ホテルまでの交通費もかかるか。兵庫の宝谷から奈良の猿沢池の畔まで。でも、宝塚までは高校に通うためのバスの定期券をもっているのでは?(たいして役に立たないか)。
「女の裸は七難招く」(6篇目)
冒頭、5月1日で予備校の屋上で、下はメーデーのデモ行進(cf.重松清『さつき断景』)。その屋上で「おれ」は、2浪の宮地佐岐子から、友達の芸大生(要するに画伯)にヌード写真を撮ってもらえないか、と頼まれる。もちろん画伯も喜んで引き受けるのだけれど、あとで(ネタバレしてしまうけれど)その佐岐子がイチゴ畑で死体で発見される。――小説では(現実でもかな)少数派の2浪の女子なのに、残念。『ピタゴラス~』の女子浪人生も男の子っぽかったけれど、こちらの浪人生も自称の言葉は「ボク」。もう1人、池口宏美という1浪生も出てくるのだけれど、志望大学が体育大(のちに防衛大?)なので、活発な人? やっぱり女子浪人生は男(の子)っぽく描かれてしまうよな、小説では。ところで佐岐子はどうして2浪に? お父さん(父娘2人家庭らしい)は長いこと失業していたらしいけれど、予備校費用はどうしていたのだろう?(ああまたお金の話だ(汗))。「おれ」は刑事に訊かれて、佐岐子のことを<「ただの同級生ですよ、予備校の」>(p.234)と答えている。1浪と2浪でも同級生?(微妙なところかも…)。
「恋すれば鈍する」(7篇目)
夏休み・ギリシア編というか。息子夫婦(「おれ」の両親)の反対にあっても、“ヘシオドス”の本場、ギリシアに行くと言ってきかないバアチャンの付添いとして「おれ」たちも一緒に行くことに。で、アポロン海岸の浜辺で事件(というか)に巻き込まれてしまう。――大学受験にはほとんど関係のない1篇。滞在は8月10日から一週間か。
「マツタケは食いたし命は惜しし」(8篇目)
10月下旬で、
<予備校では連日のように模擬試験だ。共通一次の模試が何回かあって、そのあと文系理系に分かれて本番さながらの二次模試がつづく。>(p.302)
これはちょっと早い? 共通一次までまる2ヶ月もある(うーん)。松茸狩りの松茸って山奥の足場の悪いところとかから採って来て“移植”をするんだね、びっくり。潮干狩りのアサリと同じだな。事件としては、毎年恒例宝谷主催の観光マツタケ狩の最後の最後の回に、科挙予備校の教職員団体がやってくる。で、採ったマツタケを焼いたりして食べていたところ、理事長の黒山が突然苦しみ出して、死に至る。どうやら毒キノコが原因らしい、みたいな話に。――突然、近くの人が嘔吐を始めたらどうすればいいの?(受験には関係ない話だけど)。1時間以上後に毒の回るキノコを食べたとはわからないわけだから、とりあえず水を飲ませて、胃の中のものをぜんぶ吐かせたほうがいいかも(北森鴻『屋上物語』の4篇目「挑戦者の憂鬱」では子どもだけれど、そうしている)。自分の身に置きかえて…、やっぱりとっさにはできないか。でも、この小説の場合(体育大志望の生徒もいるからか)予備校御一行の中に体育教師もいたんだよね、暴れる理事長を押さえることくらいできたのでは? あ、体育の先生が腕力があるとはかぎらないか。ちなみに、残念なことに(?)この小説では「おれ」&法王の合否までは描かれていない。
<綽名を豪商という今泉、法王こと住永、画伯こと有村たちは、それぞれ国立大、防大、芸大を志望する、兵庫県立宝塚中央高校生。だが彼らの進学の難路と恋路の前に、奇怪極まりない連続殺人の難題が降って湧いた! 彼らを叱咤激励して解決へと導く豪傑バアチャンと共に謎に挑む、傑作大青春推理編。>(表紙カバー背より)
「おれ」=豪商=今泉顕晃(かねあき)、法王=住永弘道、画伯=有村隆文の青年3人組や、名探偵のバアチャン(「おれ」のお祖母さん)が暮らしているのは、「町」になっても農村の風景が残っている宝谷(たからだに)という場所。お父さんがわりと出てくるのだけれど、法王の父親は宝福寺というお寺の和尚さん(芳道(ほうどう)和尚)、画伯の父親は駐在さん、あと高校の同級生の季美子(苗字は…吉沢か)の父親は医者。……和尚以外はミステリーにとって都合のいい職業設定? 「おれ」のお父さんは中学校の英語教師らしい。家はイチゴ栽培農家で、バアチャン(とお母さん)はイチゴを育てている。小説でイチゴ栽培が描かれているのを、今回初めて読んだような気が…。微妙に新鮮かもしれない。登場人物としては、あと宝谷の住民ではないけれど、「おれ」が好意を寄せているというか、狙っている感じの充恵(苗字は浅野)という同級生なども出てくる。
で、ネタバレしてしまうけれど、最初(1篇目)が高校2年の大晦日から始まっていて、時間がとびとびで、最後の3篇(6~8篇目)が“浪人生編”になっている。5篇目(“受験本番編”というか)で、2人より入試日が早かった(防衛大だから)法王は早々と浪人が決定していて、画伯は奈良芸大(日本画科)に合格したけれど、奈良大学(経済学部)を受験した「おれ」も不合格に。続く6篇目に入ると、「おれ」&法王は、大阪梅田にある「科挙予備校」(すごいネーミングだな)に通っている。――いちおう5篇目から1篇ごとにとりあげておこうかな。
「旅は道づれ世は騙しあい」(5篇目)
「おれ」と画伯が一緒に試験を受けに行って、ホテルで事件(というか)に巻き込まれる。――3月1日に出発して(翌日下見をして)試験本番が3月3日か。ちょっと遅いよね? 合格発表が画伯が3月22日で、「おれ」が3月24日か。やっぱり遅いな。落ちてからでは予備校の申し込みが間に合わない(?)。この↓“受験パック”はどう、安い?
<新婚旅行でもないのに豪華なホテルに宿をとったのは、例の“受験パック”というやつだ。大学受験生にかぎり、一人部屋[シングル]・一泊二食に合格弁当つきで一万三千円、おまけに受験時間に合わせて大学までバスで送ってくれるというのだから、(略)>(p.180、[括弧]はルビ)
25年以上前の話、いま同じ金額ならかなりお徳か。豪華なホテル(「奈良インペリアル・ホテル」)だし、食事はフランス料理らしいし。送迎(「送」だけか)もうれしいやね。1万3千円だけでなく、ホテルまでの交通費もかかるか。兵庫の宝谷から奈良の猿沢池の畔まで。でも、宝塚までは高校に通うためのバスの定期券をもっているのでは?(たいして役に立たないか)。
「女の裸は七難招く」(6篇目)
冒頭、5月1日で予備校の屋上で、下はメーデーのデモ行進(cf.重松清『さつき断景』)。その屋上で「おれ」は、2浪の宮地佐岐子から、友達の芸大生(要するに画伯)にヌード写真を撮ってもらえないか、と頼まれる。もちろん画伯も喜んで引き受けるのだけれど、あとで(ネタバレしてしまうけれど)その佐岐子がイチゴ畑で死体で発見される。――小説では(現実でもかな)少数派の2浪の女子なのに、残念。『ピタゴラス~』の女子浪人生も男の子っぽかったけれど、こちらの浪人生も自称の言葉は「ボク」。もう1人、池口宏美という1浪生も出てくるのだけれど、志望大学が体育大(のちに防衛大?)なので、活発な人? やっぱり女子浪人生は男(の子)っぽく描かれてしまうよな、小説では。ところで佐岐子はどうして2浪に? お父さん(父娘2人家庭らしい)は長いこと失業していたらしいけれど、予備校費用はどうしていたのだろう?(ああまたお金の話だ(汗))。「おれ」は刑事に訊かれて、佐岐子のことを<「ただの同級生ですよ、予備校の」>(p.234)と答えている。1浪と2浪でも同級生?(微妙なところかも…)。
「恋すれば鈍する」(7篇目)
夏休み・ギリシア編というか。息子夫婦(「おれ」の両親)の反対にあっても、“ヘシオドス”の本場、ギリシアに行くと言ってきかないバアチャンの付添いとして「おれ」たちも一緒に行くことに。で、アポロン海岸の浜辺で事件(というか)に巻き込まれてしまう。――大学受験にはほとんど関係のない1篇。滞在は8月10日から一週間か。
「マツタケは食いたし命は惜しし」(8篇目)
10月下旬で、
<予備校では連日のように模擬試験だ。共通一次の模試が何回かあって、そのあと文系理系に分かれて本番さながらの二次模試がつづく。>(p.302)
これはちょっと早い? 共通一次までまる2ヶ月もある(うーん)。松茸狩りの松茸って山奥の足場の悪いところとかから採って来て“移植”をするんだね、びっくり。潮干狩りのアサリと同じだな。事件としては、毎年恒例宝谷主催の観光マツタケ狩の最後の最後の回に、科挙予備校の教職員団体がやってくる。で、採ったマツタケを焼いたりして食べていたところ、理事長の黒山が突然苦しみ出して、死に至る。どうやら毒キノコが原因らしい、みたいな話に。――突然、近くの人が嘔吐を始めたらどうすればいいの?(受験には関係ない話だけど)。1時間以上後に毒の回るキノコを食べたとはわからないわけだから、とりあえず水を飲ませて、胃の中のものをぜんぶ吐かせたほうがいいかも(北森鴻『屋上物語』の4篇目「挑戦者の憂鬱」では子どもだけれど、そうしている)。自分の身に置きかえて…、やっぱりとっさにはできないか。でも、この小説の場合(体育大志望の生徒もいるからか)予備校御一行の中に体育教師もいたんだよね、暴れる理事長を押さえることくらいできたのでは? あ、体育の先生が腕力があるとはかぎらないか。ちなみに、残念なことに(?)この小説では「おれ」&法王の合否までは描かれていない。
コメント