『だれかのことを強く思ってみたかった』(写真・佐内正史、実業之日本社、2002/集英社文庫、2005)所収、16篇中の16篇目。この1篇だけ単行本時の書き下ろし作らしく、ほかのものと違ってちょっと長くなっている。でも、それでも文庫本で20ページくらいの短いもの。ひと言でいえば、“上京組東京小説”…というよりは、“中央線沿線小説”な感じ? 「黄色い電車」って要するに総武線のことでしょう?

内容というかは、短いので私が説明するよりも読んでもらったほうが早いと思うけれど、一応。「私」とヒラタカナコとH岡は、同じ日に同じ病院で生まれた子ども。母親たちは仲良くしているけれど、「私」たちは会えば会釈をするくらいで、ずっとよそよそしい関係が続いている。その3人が最後に顔をそろえたのは、1985年の秋。小さな町から3人それぞれの事情で上京する電車にて。――よくわからないけれど、上京が人生の(ある程度行き先が示された標識をもつ)分岐点というか。(なんていうか、短いものであっても、以前読んだことがある、同じ作者の別の長篇小説と人物配置みたいなものがたいして変わらないかもしれない。『ぼくとネモ号と彼女たち』では「ぼく」が3人の女性を1人ずつ車に乗せていくみたいな話だったし、『夜をゆく飛行機』では「私」を含めて酒屋の娘である4姉妹が描かれていたし…。Aさん(くん)、Bさん(くん)、Cさん(くん)、…という感じで、フラットというか。)

「私」の上京の理由は、予備校に通うため。「私」は偏差値の低い女子校に通っていたらしい。現役時の受験の結果はどうだったのかな? ぜんぜん書かれていない(短い小説だからしかたがないか)。それにしても、浪人生で「秋」から予備校に通うのって、特に何か事情がなければ、ちょっと遅いよね。しかも、時期はプロ野球の優勝チームが決まってからと言っていて(1985年は阪神が優勝)、9月といっても10月に近い感じ? あとのほうで上京の日が「寒い日」だったとも言われている。ま、予備校がよく募集している後期入学なのかもしれないけれど。(それならやっぱりふつう9月1日の入学な気がするけれど。)

で、「私」は2浪している。風呂&トイレ付き、でも電車の音&新聞屋の足音もあり、な予備校近くの木造アパート(窓からは「黄色い電車」が見える)に、予備校に通い始めて1ヶ月もしないうちにできた恋人、を連れ込んで、いちゃいちゃしたりしていたらしい。――そりゃ落ちるよね(それで受かる人がいたら、勉強のみ生活だったほかの浪人生から石をぶつけられてしまう?)。というか、その恋人とはどんな人で、どこでどうやって知り合ったのだろう?(それもわからない)。なんていうか、小説にはあまり描かれない(角田光代くらいしか描いていない)ある意味で本当にダメな“ダメ女子浪人生”かもしれない、この人。勉強ができるできないとか、勉強しているしていないとかは関係なく。ちなみに、大学に入っても1年留年しての卒業後も「私」の性格や生活はたいして変わっていない。就職せずにアルバイトをしつつ、恋人と付き合ったり別れたり…。(あれ、ん? 「私」の性別を女性と決めつけてしまってもいいのかな…。細かく読み直さないとわからないや(汗)。雰囲気的には大丈夫っぽいけれど。)

そう、受験的なことでは、共学の進学校に通っていてその中でも勉強のできたらしいヒラタカナコが、高校卒業後の秋に男を追いかけて上京する前に、いったんは地元の(?)大学に行ったのか否か、それとも就職したのか、とかについて書かれていない。――ま、要するに秋に上京、というのがそもそも不自然なんだよね。1人ならいいとしても3人ならなおさら。
 

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