2ちゃんねるの書き込みで薦められているのを見て(たしか夏樹静子を調べているときに検索にかかったんだったか)存在を知って読んだのだけれど、とても面白かったです、読んでよかった。内容よりも文体がいいのかな、これは。主人公というか視点人物は男の子だけれど、女性作家による若干舌足らずな文体というか。自分は川上弘美とかけっこう好きだから、それと同じような理由で気に入ったのかも(あ、でも尾崎翠には挫折しているけど)。いま手もとにあるのは、この1篇が表題作となっている角川文庫のもの(1986年)。7篇中の1篇目。後ろのほうを見ると、初出は<一九六三年一月「別冊婦人公論」>とのこと。いい感じに古いな。単行本は(これも同タイトルのものが)1980年に作品社から出ているようだ。でも、収録作は違っているらしいというか、角川文庫のほうがたんに2篇多いだけ?(単行本を確認しないとわからないな)。※以下、いちおうネタバレにはご注意ください。

 <女の横で朝をむかえる、はじめての経験、充ち足りて、それでいて何かもの悲しい。夢うつつに目ざめた少年の目に突然、赤く汚れたシーツ、真赤な水をたたえた水槽がとびこむ……。名前も知らない女はすでに冷い。(「素直な容疑者」)他に北国の孤独な風景の中に微妙にゆれ動く女の愛と哀しみを描く「峠」「窓辺の娘」など六篇を収録。>(表紙カバーの折り返しより)

10月ののどかな朝のこと、明が起きると隣の女性が亡くなっている。その女性というのは、昨夜知り合って一緒に寝た「奥さん」(名前などはあとで警察が教えてくれる。→相川祐子、昨年旦那が亡くなっている未亡人、ピアノ教師、再婚の話がまとまっている)。寝た場所はその奥さんの家なのだけれど、その家にはほかに従妹(いとこ)の桃子(20歳)とお手伝いの幸子が暮らしていて、あと犬(ドーベルマン)なんかもいる。――そんなことはどうでもいいか(汗)。要するにこれも“疑わしきは浪人生”ものというか、一緒に寝ていた人が殺されていて自分の顔とかに血がついたりしていれば、やっぱり警察には疑われちゃうよね(汗)。でも(叙述トリックとかでなければ)読者には明くんが犯人ではないことはわかっている感じ。細かいことはたんだんとわかってくるのだけれど、フルネームは「庄司明」、19歳。浪人2年目で、医者(個人病院?)のひとり息子らしい。予備校に通っているかはたしか、書かれていなかったと思う(付箋紙を貼っておこうと思うのだけれど、いつも忘れちゃうな…)。志望している大学や学部もよくわからない感じ、だけれど、いちおう医学部なのかな? 札幌地検での検事(高村)とのやりとり、

  <「医者になりたくなくて[父親に]反抗してたのかね」/「反抗というほどでもありません。でも、医者になるなら細菌学でもやりたいと思ってました」/「本当はなにをやりたかったんだ」/「さあ……。高校時代には地質学とか考古学をやりたいと思ってました」/(略)>(p.40、[括弧]は引用者による)

これも少なくとも小説ではありがちな、進路における医者の息子的な葛藤か。そう、哲学もそうだけれど、考古学なんかも、役に立たない学問の代名詞というイメージがあるのかな?(最近読んだ、平山瑞穂『忘れないと誓ったぼくがいた』でも、主人公のお兄さんが金沢の大学で考古学を勉強している、みたいな設定になっている)。「反抗」といっても、「地質学とか考古学」くらいであると、あまり理系からは離れていないよね。

どうでもいいことだけれど、地検の前、警察(「札幌中央署」)の取調室で、明は刑事から天丼と番茶を出されている。――カツ丼ではなくて天丼なんだね、いつごろから定番(?)がカツ丼になったんだろう? でも、最近はTVドラマを見ていても、ぜんぜん提供されていないな、食べ物とか、煙草とか。

(あ、以前読んだ笹沢左保「裏切りの雨」という短篇も、2chの同じスレッドで知ったんだったか。最近、読む小説(特に短篇小説)がネタ切れぎみなので、なんていうか、感謝、感謝。)
 

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