今野敏 「陽炎」

2008年10月13日 読書
“安積警部補シリーズ”の1冊らしい、連作短篇集『陽炎 東京湾臨海署安積班』(角川春樹事務所、2000/ハルキ・ノベルス、2003/ハルキ文庫、2006)の表題作。8篇中の8篇目。手もとにあるのは、文庫が手に入らなくて、ノベルス版です。※以下、毎度のことですが、けっこうネタバレしているので、読まれていない方はご注意ください。

こんなの書いてみました、みたいな中途半端な“青春小説”?(だいぶ前に読んだことがある森詠「ハーバー・ライト」(『七つの恋の物語』)よりは面白かったかな。←たんにいま思い出しただけで、比較対象としての選択に他意はないです)。個人的には、「寒い、寒い」と言い続けている小説はあまり好きではないけれど、「暑い、暑い」としきりに言っている小説はけっこう好きかも。すべては太陽のせいというか?(出典はアルベール・カミュの『異邦人』…ではなくて、郷ひろみ?)。

東京には空がないだけでなく海もないらしい、夏といえば海で泳いでいたという四国出身の予備校生、坂崎康太は、海を見るためにお台場へ。そこで痴漢に間違われて、逃げる途中で車どうしを衝突させてしまったり、老人にぶつかってしまったりで、最後は女の子(エミ)を人質にとって屋上だかテラスだかに立てこもることに。そんな彼を、陽炎(かげろう)が立ちのぼるなかでも揺らがない(?)おなじみ安積警部補が説得する、みたいな話。そう、何か違う種類の小説になってしまうかもしれないけれど、立てこもるまでがもっとスラップスティックになっていてもいいような…。それはともかく。

康太くん、何もかもどうでもいい、みたいな気持ちになっているわりに、受験のことを気にしている模様。

  <「捕まるわけにはいかない。受験ができなくなるくらいなら、ここから飛び降りて死ぬ」/(略)/「警察に捕まったら、受験に響くんだよ。俺たちはみんなぎりぎりところで競争してんだ。些細なマイナス要因が致命傷になるんだ」>(p.192、上段)

「受験に響く」というか、就職と違って大学受験ではあまり前科は問われないと思うのだけれど、逮捕されて長いこと拘束されてしまえば、物理的に試験自体を受けられなくなるよね、そのことを気にする方が自然であるような…。あと、単行本の出版年は……2000年か、受験イコール競争という考えなんだね(うーん…)、しかも主語が「俺たち(みんな)」になっている。作者の生年は……1955年か。ま、この小説にかぎらず、小説を読んでいて“大学受験観”が古く感じてしまうのは、ほぼ毎度のことだけれど。小説のテーマは“友達”? ヤマンバギャル(!)が化粧を落としたら、あらかわいい、みたいな、そういうのとかも、個人的にはいらないな。
 

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