連作短篇集『星々の舟』(文藝春秋、2003/文春文庫、2006)の3篇目(全6篇)。※以下、ネタバレ注意です、毎度すみません。主人公というかは、大工の棟梁である父親の仕事(「水島工務店」)を手伝っている水島沙恵、現在34歳。高校2年の夏のこと、彼女は付き合ってくれと言われた知り合いの知り合いの浪人生(田辺孝一)と付き合ってみることにしたけれど、最初のデート(映画、買い物や食事)の帰りに、<いいじゃんか。もったいぶるなよ>(文庫、p.157)とか言われ、強姦されてしまう。付き合う前に相談されて、とりあえず付き合ってみれば、と助言していた次兄の暁(1つ歳上)は、電話番号からその浪人生の下宿を突き止めてぼこぼこに…したらしい。で、お兄ちゃんサイドからいえば、好きだった妹を慰めているうちにミイラ取りがミイラに…というか、兄と妹、越えてはいけない一線を超えてしまうわけですよ(?)。

 <<お兄ちゃん……>/(略)/<おにいちゃん……っ>>(p.172)

小さい「っ」で昇天です(汗)。兄目線で読めば多少の“妹萌え”も可能かも。両親は再婚で、とりあえず2人はそれぞれの連れ子。

この1篇だけでなく全体的に脇役に対してちょっと愛が足りていない感じがする小説(集)だけれど、このちょい役の(でもトリックスター的に重要な?)浪人生に対しても、多少そんな感じかもしれない。勉強のほうはどうなのかな? <受験勉強? 進んでるわけないじゃん>(p.156)と本人が口にしているとおり、あまりしていないかもしれないな。最初から襲うつもりではなかったにせよ、女の子(歳下でよく知らない相手)と付き合おうとしている時点で、時間がいくらあっても足りない受験生としては失格というか。でも、もしかしたら暁お兄ちゃんに殴られたあとは、改心してちゃんと勉強するようになったとか?(それはないか)。結局、受験の結果はどうだったんだろうね? 受けてないかもしれないしな。――どうでもいいか、そんなこと(自分も愛が足りない(汗))。訴えられたらそれ(=大学受験)どころじゃなかっただろうし。

そういえば(この前、南木佳士『冬物語』所収の「ウサギ」という短篇を読んでいて思い出したけれど)昔、『ひとつ屋根の下』という“両親のいない兄弟姉妹同居ドラマ”みたいなのがあって(フジテレビ)、たしかそのなかでも、妹が家に帰る途中、路上で見知らぬ高校生だか浪人生だかに犯される、みたいな回があったような…。たしか模擬試験の結果が悪くてむしゃくしゃしていた、みたいな理由で。大森望・豊﨑由美『文学賞メッタ斬り!』という対談本では、この小説集(『星々の舟』は直木賞受賞作)のことが、<ものすごくベタ。出来の悪いテレビドラマみたい。>と言われているけれど(単行本、p.39、大森氏の発言)、TVドラマ的な想像力で書かれている小説なのかもしれない。私は読んでいる間、TVドラマっぽいとは思わなかったけれど。「ベタ」なのはデビュー作(とされる)『天使の卵』からしてそうだもんね、この作者。

ちなみに、“受験生小説”という感じではないけれど、同じ本の5篇目「雲の澪」では、長兄・貢の娘、高校3年生の聡美が視点人物になっている。“誕生日小説”って多いけれど、これはアンハッピーな18歳のそれ。
 

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