光文社、1992/カッパ・ノベルス、1997/光文社文庫、1999。※いつものように以下、ネタバレにはご注意ください。長篇というよりは連作短篇集で、各篇それぞれ別の財布が語り手となっている小説。なんていうか、以前読んだ北森鴻『屋上物語』もそうだったけれど、これも♪おデコのメガネでデコデコデコリーン、な読みごこち? 別に人が財布と会話できるようになるわけではないけれど。というか、デコデコ~を知らないですかそうですか(汗)。財布たちは(まじめに言うのもばからしいけれど)感覚としてはとりあえず視覚と聴覚があるみたいです。ただ、ポケットや鞄に入れられていることが多く、視覚はあまり役に立っていない模様。知能は、人語を解するところから判断して人間並みに発達、性格は(飼い犬ではないけれど)たいてい持ち主に似ている感じ。エピローグを除いて10篇収録されていて、最後の2篇に直接的・間接的に1人の予備校生(名前なし・20歳)が出てくる。あ、最後の1篇のお財布は、買ってあげたのがお母さんで、持ち主よりもお母さん的な性格になっている。読んでいて最初の1篇はあまり面白くなかったけれど、2篇目が“語りかけてくる文体”というか、読みやすい感じのもので、それ以降はけっこう最後まで面白く読めたかな。そう、4篇目(「探偵の財布」)が個人的にはどうもハード・ボイルド小説のパロディに思えてしまって、笑いどころなんてないのに笑えてしまう。

本題。なんていうか、中上健次の「十九歳の地図」とは違った意味で“危ない予備校生”というか。ワイドショーなどで連日のようにとりあげられていて、しかも犯人らしき人物までテレビ出演している、社会的な関心がとても高くなっている連続殺人事件の真犯人(実行犯)が実は自分であると名乗りでてくる予備校生――ネタバレしてしまうけれど、この人は結局、入院だか通院だかをさせられることになったようだ。受験勉強ばかりという狭く暗い世界から、妄想の力を借りて世間が関心を寄せる広く明るい世界へと脱出? 

 <「ああいう人間が――惨めでちっぽけで、世間からまったく顧みられることのない敗残者――それが、今度の事件の実行犯だろう」>(文庫、p.338)

ダッシュに挟まれた部分、一般的な浪人生のイメージと一致してしまう?(うーん…)。話がちょっとずれるけれど、結論めいたことをいえば、「息抜き」というと受験生が受験勉強をさぼるための言い訳であることが多いけれど(少なくとも小説では)、頭がへんになるくらいなら(小説はおいておいて、現実の話)やっぱり息抜きくらい必要かもしれないやね。結局この予備校生は大学には受かったのかな? ――と誰も心配していないようなことを心配してみる(汗)。

ちなみに、ほかに大学受験がらみでは、デカ長の娘が来年、大学に入学するらしい(まだ12月の時点だから、すでに受かっているとすれば私立?)。浪人経験(1年)がある高校の数学教師も出てくる。大学受験ではないけれど、25歳のとき司法試験をめざして2度失敗して(浪人期間は1年か)あきらめた男も出てくる。年齢的に近いところでは、上京して寮生活をしている19歳のバスガイドとその高校まで同じ学校で同級生だった短大生も出てくる。←ぜんいん名前はあるけれど、省略。
 

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