同名書(NHK出版、2006)所収。200ページくらいなので中篇、あるいは長めの短篇という感じ。タイトルに関して、読み始めてわりとすぐ自分が「お見合い写真」と勘違いしていたことに気づいた。ウェディング・ドレスなどを着て撮る写真のことなんだね(当たり前か)。中身はひと言でいえば、“母娘小説”。母と娘の関係が描かれている小説というのは、女どうしだからか(そして自分が男だからか)読んでいて怖くなるイメージがあるけれど(*注)、この小説はそれほど怖くはなかったです。なんていうか、全体的に地に足がついている感じがして、それが意外とよかったかもしれない。例えば、娘の満(みつる)が朝食で、パンを焼いて半分に切って、片方にはジャムをぬってもう片方にはチーズをのせて食べている――似たようなことを私もよくやります(汗)。半分ずつ味を変えたくなるよね?(ならないですか?)。それはともかく、とりあえず日常的な食べ物ですね、食パン。全体的に小説(作品)としての突込みどころはたくさんあるような気がするけれど、それはまぁいいか。

視点人物となっているのは、娘の片桐満、母親の和歌子、和歌子の彼氏の林の3人。でも、ほとんど母娘の2人か。言葉としてはあまり使われていないけれど、それぞれの1人称(の言葉)は「わたし」、「私」、「俺」となっている。満(みつる)は最初、女子中学校の2年生、一方の和歌子(アラフォーというか最初はジャスト40歳)は、足を棒にして保険の営業をしている。母親が娘に付き合っている彼を紹介して…、みたいな展開は“母娘小説”の定番の1つかな。お母さんは夫とはだいぶ前に離婚していて、いまはマンション(といっても築20年近く)で母子2人暮らし。満が学校でイジメにあうというか、クラスメートからシカトされるのだけれど、インターネットが絡んでいるあたりは、今風だな、と思ったです。そういえば、「学○裏サ○ト」という言葉はいつごろから耳にするようになったんだっけな(…思い出せない)。最初のへんでは、呼び出されて平手で殴られたりもしているけれど、でも、あまり深刻なことが起こっているように感じない小説であるような…。そうでもないかな(わからないけれど)。

本題というか。それほど出てくるわけではないけれど、小説的に重要といえば重要? 満と幼なじみで、兄妹のような関係にある、同じマンションに暮らす浪人生が出てくる。名前は洋(よう)ちゃん(上の名前は……「上村」か)。片桐家と同じく、母子2人暮らしらしい。で、まず思ったのは、すごく明るいわけではないけれど、これほど屈託のない、暗さのない小説中浪人生もめずらしいな、ということ。“妹”目線であれ。結局(少しネタバレしてしまうけれど)翌年、合格したのが「体育大学」とのこと。体を使うような実技試験もある(あった)のかな? 少なくとも、精神的に内にこもって勉強するような性格ではない(なかった)のかもしれない。そう(これもネタバレしてしまうけれど)その後、大学は中退して海外に行ってしまったらしい。ちなみに(?)浪人中、同じ予備校に通っているらしい彼女(安達ひとみ)がいる。でも(これもネタバレか)満目線でいえば、幼なじみの男の子(といっても5つ歳上)に対する恋心に気づく、みたいなことも、小説的にはお約束か。ただ、読んでいてあまりベタな感じはしなかったけれど。受験がらみのことでは、あと、高校受験だけれど、満自身も翌年、中学3年で受験生になっている。

(ちなみに、カップリングの、表題作よりもだいぶ短い1篇の「納豆ウドン」――会話が大阪弁だし、こちらのほうが面白かったかな――は、主人公が受験に失敗して第2希望だった学校に甘んじて通っている女子高校生。家はお弁当屋で、父親に乗せられて近くの学習塾の生徒向けに「受験生弁当」を考案することに。生徒からのイジメにあって――それが直接のきっかけではないらしいけれど――学校を辞めた元中学校音楽教師も出てくる。ネタバレしてしまうけれど、元学校教師はやっぱり、塾で勉強を教えたいと思うものらしい。)

*注 あまり思いつかないけれど、例えば2人暮らしのものとしては、中沢けい「海を感じる時」とか、小川洋子『ホテル・アイリス』とか。よく覚えていないけれど、栗田有起「ハミザベス」もそうだったかも。2人暮らしではないけれど、山本文緒『群青の夜の羽毛布』、川上弘美『いとしい』(どちらもお姉さんがいたと思う)も、たしか母娘関係が描かれていたと思う。

[追記]その後、文庫版が出る。小学館文庫、2010(表題作のみ収録)。
 

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