手もとにあるのは、集英社文庫から出ている『遠い森』(1984)で、その5篇中の5篇目に収録されているもの。この1篇の初出は、奥付の前のページによれば、<昭和三十八年八月「小説中央公論」に掲載>とのこと。昭和38年=1963年……というのは、けっこう古めか。それはともかく、原田康子ってやっぱりおもしろいな。文体とか雰囲気とかが好きかもしれない。いまはほかに読まなくてはいけない本がたくさんあって、はまってはいられないけれど(汗)。(角川文庫から出ている『輪唱』というのは買ってあって、これは早いうちに読もうかと思っている。)

「私」(「和島さん」とか「ノンちゃん」と呼ばれている)は、「北海日報」という小さな地方新聞社につとめている。入社5年目で、昨年、結婚したのを機に内勤に回してもらって、いまは校閲の仕事をしている。「私」のほかに「校閲のデスクの一画」(悪口で「雀の学校」とも)を占めるメンバーには、田辺君と有坂君という今年、高校を卒業したばかりの2人の少年(境遇や性格などが対照的)がいる。2人とも来年の春、大学を受験するらしく、新聞社は「腰掛け」であるらしい。田辺君(「お役人の一人息子」「明るくのんびりした少年」)のほうは今年も受験したらしく、仕事というかアルバイトをしながらだけれど、ふつうの浪人生という感じ、かもしれない。一方の有坂君(「樺太生まれで父親がなく、小さなきょうだいが何人か」「口数の少ない静かな少年」)は、今年は受験していないらしく、来年が初めてになるらしい(お金を貯めているのかな?)。個人的には1度も受験していない人を、浪人生とはあまり呼びたくないけれど、まぁ浪人生といえば浪人生かな。田辺君は東京の大学を志望、有坂君は土地(たぶん北海道)の学芸大学を志望しているらしい。(←だらだら書くくらいなら、p.152をそっくり引用してしまったほうが早かったかも(涙)。)

2人に関係する話としては、有坂君が文選工の宏ちゃん(泉宏子、17、18歳くらい)とゲラを使ってやりとりしているのを、田辺君が気づいて「私」に知らせ、「私」が有坂君に注意すべきかどうか迷う、みたいなことがある。楠本部長(よくいそうな感じの人だけれど、ちょっと不思議な雰囲気?)に相談したりもする。北海道で「文選工」というと、以前読んだことがある小檜山博『地吹雪』を思い出すけれど、あれは男の子(主人公)で大変そうだったけれど、こちらは(女子工員は4人ほどいるらしいけれど)若い女の子が手を汚して仕事をしているんだね。もっと大変だ。というか、結局、宏ちゃんはやめてしまう(やめてしまったらしい)けれど。

ちなみに、描かれているのは、10月から2月くらいまで。新聞社があるのは、よくわからないけれど(私が地理にうといせい)、道路を隔てた向かいに「根室本線の線路」があると言っている。場所はともかく、雀の子たち(?)である2人は、結局、大学には受かったのかな? 働きながらだから落ちてもしかたがない、といえばしかたがないかもしれないけれど。(そういうのは、人によって言い訳にできたり、できなかったりか。)
 

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