『追憶のルート19』(講談社、1987/講談社文庫、1989。「19」は「ナインティーン」と読む)所収、6篇中の6篇目。ぜんぜん期待していなかったせいか、この小説もけっこう面白く読めたです。後ろの「ノート/あとがきにかえて」ではこの作品について、<ダークでヘヴィな小説>(p.182、文庫)と書かれているけれど、2009年のいま読むと(?)それほど、ダークでもヘヴィでもないような気はするかな。ただ、やっぱり全体的に明るい話ではなくて、最後もハッピーな終わり方にはなっていない。

一応浪人生である英助(吉村英助)は、<ブルーズ>という店でアルバイトDJをしている美奈子(高校の2つ上の先輩、大学生)に近づきたいと思っているのだけれど、楽屋には美奈子の自称(?)彼氏というかの園田(英助の高校の同級生)がいて邪魔だったり、その前に会いに行ってデートに誘ったりする勇気がなかったりもして、願いはなかなか叶わない。一方、そんなおり、店の近くの路上で寝ていたホームレス(?)の「爺さん」と親しくなり、その姿や境遇などに自分自身を重ねて見たりする。――この小説も意外と吉村昭「星への旅」(同名書所収)と似ているかな(例によって本がどこかに行ってしまって確認できないけれど)。“虚無感”まではいかないけれど、「気力がない」とか言っているあたり。

 <(略)だが、たった今しなければならないことが、たった今見なければならないものがあるような気がして仕方がないのだった。いや、それは言い訳だ。自分には気力がないだけなのだ、と英助は思い直す。自分は、水平に広がった世界から、今、縦にこぼれおちて行こうとしているのだ。そのことを知っていながら、それをくい止めようと努力することができない。>(p.150)

スーパー・マーケットの魚売り場のアルバイト(午後3時から)には間に合うらしいけれど、朝は起きられないとも言っている。堕落というか、落ちるところまで落ちたいのかなんなのか。憧れの美奈子にしても爺さんにしても結局のところ、気力快復(?)には繋がらずじまい。で、“浪人生小説”としてはどうかな? うーん…。主人公が現役合格した大学生であったとしても、まったく同じ状態になっていたような気がしないでもない。でも、勉強する気が起きず、大学受験どころか、将来のこともどうでもよくなってしまっている浪人生には、意外とおすすめできる短篇であるような?(わからないけれど)。

ちなみに、季節は<あと一ヵ月もすれば、大学の入試がはじまる>(p.150)という、たぶん12月くらい(タイトルにもあるし)。舞台となっているのは、たぶん東京で、英助は4畳半のアパートで1人暮らし。祖父が亡くなっていて、男を連れ込むような母親と2人で暮らしていたらしいけれど、一緒にいたくなくて(受験勉強を理由にして)家を出たらしい。予備校にはいちおう籍はあるみたいだけれど、ぜんぜん行っていない模様。高校のときは陸上部だったらしい(それはどうでもいいことか(汗))。
 

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