芦辺拓 『時の密室』
2009年5月11日 読書
立風書房、2001/講談社文庫、2005。手もとにあるのは、後者です。※以下、いつものようにネタバレにはご注意ください。
文章については(ご覧のように)人のことがとやかく言える身分(?)ではないのだけれど、“騙し絵”で有名なM.C.エッシャーに対する中途半端な憧れを表明する以前に、自分自身の文章の非芸術性をなんとかしたほうがいいのではないかと思えるような、リズムが悪くて読みにくい文章であるかもしれない(もちろん主観だけれど)。内容的なことでは、例えば、いわゆる“団塊の世代”に対して苦虫を噛みつぶしたような顔を向ける世代、であるというのはしかたがないにしても、その批判がこれまた中途半端というか、稚拙な感じがするというか。
この小説の主人公を1人挙げろ、と言われたら、やっぱり“大阪という都市の一部”?(「人」ではないけれど)。明治、昭和(1970年前後)、平成と、同じ場所でも名前が変化していたりするし、こまごまとした地名がたくさん出てくるし、…要するに読んでいてめんどくさい。面白い小説であれば我慢して読むけれど、今回は辛抱できなかったです。しかも、500頁以上もある本、やっとこさ半分くらい読み終わったと思ったら、今度はなんと博覧会!(「第五回内国勧業博覧会」)の再現描写があって、必然的に展示館だの展示物だのの列挙ありで、それはそれは読むのがめんどうなことでした(涙)。要するに衣ばかりで中身のほとんどない海老の天ぷらみたいな小説?(別にエビフライでもいいけれど)。で、なんだかんだで最後まで読んで、真犯人(というか)の名前を聞いても、「あー、やっちゃってるよ(何を?)」とため息をついてしまうくらいな、がっかり小説でした。
弁護士で素人探偵の森江春策の頭には、作中で起こる、あるいはすでに起こっている大小いくつかの事件のほとんどすべてが、<密室>に思えてしまうらしいけれど、森江目線・時系列でいえば、まず、2000年の4月、大阪府豊中市の路上で男性がネクタイで首を絞め殺された事件=<路上の密室>の容疑者として汐路茂という男が逮捕され、その弁護を引き受けるというか冤罪を証明しようとする。で、被害者=宇堂祥吉と汐路氏の接点を調べると……というか、あまり詳しく書いても意味がないな。簡単にいえば、学生運動での警察機動隊との衝突と、1970年に河底トンネル(「安治川トンネル」)で起こった殺人事件=<水底の密室>にさかのぼり、さらには明治に大阪にもあったという外国人居留地(「川口外国人居留地」)での殺人事件=<河畔の密室>にまでさかのぼる、みたいな話。最後のほうでは(「プロローグ」でも描かれているけれど)誰かから脅迫された早船光太郎――路上での被害者・宇堂の大学の同級生で友人――に代わって森江が、その脅迫者の要求どおり“絵画”を持って水上バスに乗り込む、みたいな、どこが「密室」なのか説明を聞いても個人的にはさっぱり理解できない事件=<水上の密室>も起こっている。
いつものように本題というか。路上事件の目撃者として山松信之という浪人生が出てくる。事件が起こったのは10時過ぎであるらしいけれど、いまどきそんな早い時間であれば、小学生でも起きているだろうし、どうして小説的に、浪人生を目撃者に抜擢したのかがよくわからないけれど、それはそれとして。
<「ちょうど、僕はこの机で勉強中――というかほんまのとこはボォッとしていて、何気なく顔を上げたとたん、男の人が二人、争っているのが見えたんです。(略)」>(p.154)
<(略)しかも、これでは貴重な夜の勉強時間が――サボることはままあったけれど――台なしではないか。>(p.330)
<(略)それにしても、何もこんな時間にしなくても昼間なら予備校がサボれるのにと思ったが、(略)>(p.331)
いちばん上は森江が最初に会いに行った場面、下の2つはその浪人生目線の箇所で、警察関係者が家(2階の部屋)に来て再現実験(というか)をしている場面から引用。まだ4月だというのに呆けていたり、さぼることばかり考えていたり、なんていうか、気合いの足りない受験生だな。大丈夫だろうか、来年の入試は? ま、心配するだけ損か。いちばん下、予備校ではなくて夜の勉強がさぼれているのだからそれでいいのでは? ちなみに、長男らしいです。2階の自分の部屋は6畳らしい(どうでもいいか(汗))。そういえば、最初に森江が訪ねたときに平日の昼間から家にいた理由が書かれていない(予備校はふつうにさぼったのか?)。
+++++++++
文章について少し具体的に言ったほうがいいかな。例えば最初の文(「プロローグ」の冒頭)は、
<灰色の都市に架け渡された灰色の橋の真下に、輝くような純白の船が差しかかろうとしていた。>(p.7)
となっている。これを音読すると私は必ずどこかでつっかえてしまうのだけれど、それはなぜ? うーん…。「灰色」という言葉の繰り返し、「灰色の橋」の「は」の繰り返し(頭韻)、「架け渡された」「輝くような」「差しかかろうと」の「かk」または「かg」の繰り返し(これも頭韻)――表現効果を考えているとはとても思えない、テキトーな書きぶり? そうでもないか(わからない)。改行されて続く2文目は、<川は満々と青黒い水をたたえて流れ、(略)>(同頁)となっているのだけれど、色彩的なイメージ的にも、灰色の背景に灰色の橋、その下に白い船、その船の下には青黒い川――現実でもそうなっているのかもしれないけれど、イメージを喚起させる言葉、として微妙な感じがしないでもない。とにかく、まだ読まれていない方は、冒頭だけでなくこのレベルの文章がずっと続くことを覚悟して読まないといけない。
文章については(ご覧のように)人のことがとやかく言える身分(?)ではないのだけれど、“騙し絵”で有名なM.C.エッシャーに対する中途半端な憧れを表明する以前に、自分自身の文章の非芸術性をなんとかしたほうがいいのではないかと思えるような、リズムが悪くて読みにくい文章であるかもしれない(もちろん主観だけれど)。内容的なことでは、例えば、いわゆる“団塊の世代”に対して苦虫を噛みつぶしたような顔を向ける世代、であるというのはしかたがないにしても、その批判がこれまた中途半端というか、稚拙な感じがするというか。
この小説の主人公を1人挙げろ、と言われたら、やっぱり“大阪という都市の一部”?(「人」ではないけれど)。明治、昭和(1970年前後)、平成と、同じ場所でも名前が変化していたりするし、こまごまとした地名がたくさん出てくるし、…要するに読んでいてめんどくさい。面白い小説であれば我慢して読むけれど、今回は辛抱できなかったです。しかも、500頁以上もある本、やっとこさ半分くらい読み終わったと思ったら、今度はなんと博覧会!(「第五回内国勧業博覧会」)の再現描写があって、必然的に展示館だの展示物だのの列挙ありで、それはそれは読むのがめんどうなことでした(涙)。要するに衣ばかりで中身のほとんどない海老の天ぷらみたいな小説?(別にエビフライでもいいけれど)。で、なんだかんだで最後まで読んで、真犯人(というか)の名前を聞いても、「あー、やっちゃってるよ(何を?)」とため息をついてしまうくらいな、がっかり小説でした。
弁護士で素人探偵の森江春策の頭には、作中で起こる、あるいはすでに起こっている大小いくつかの事件のほとんどすべてが、<密室>に思えてしまうらしいけれど、森江目線・時系列でいえば、まず、2000年の4月、大阪府豊中市の路上で男性がネクタイで首を絞め殺された事件=<路上の密室>の容疑者として汐路茂という男が逮捕され、その弁護を引き受けるというか冤罪を証明しようとする。で、被害者=宇堂祥吉と汐路氏の接点を調べると……というか、あまり詳しく書いても意味がないな。簡単にいえば、学生運動での警察機動隊との衝突と、1970年に河底トンネル(「安治川トンネル」)で起こった殺人事件=<水底の密室>にさかのぼり、さらには明治に大阪にもあったという外国人居留地(「川口外国人居留地」)での殺人事件=<河畔の密室>にまでさかのぼる、みたいな話。最後のほうでは(「プロローグ」でも描かれているけれど)誰かから脅迫された早船光太郎――路上での被害者・宇堂の大学の同級生で友人――に代わって森江が、その脅迫者の要求どおり“絵画”を持って水上バスに乗り込む、みたいな、どこが「密室」なのか説明を聞いても個人的にはさっぱり理解できない事件=<水上の密室>も起こっている。
いつものように本題というか。路上事件の目撃者として山松信之という浪人生が出てくる。事件が起こったのは10時過ぎであるらしいけれど、いまどきそんな早い時間であれば、小学生でも起きているだろうし、どうして小説的に、浪人生を目撃者に抜擢したのかがよくわからないけれど、それはそれとして。
<「ちょうど、僕はこの机で勉強中――というかほんまのとこはボォッとしていて、何気なく顔を上げたとたん、男の人が二人、争っているのが見えたんです。(略)」>(p.154)
<(略)しかも、これでは貴重な夜の勉強時間が――サボることはままあったけれど――台なしではないか。>(p.330)
<(略)それにしても、何もこんな時間にしなくても昼間なら予備校がサボれるのにと思ったが、(略)>(p.331)
いちばん上は森江が最初に会いに行った場面、下の2つはその浪人生目線の箇所で、警察関係者が家(2階の部屋)に来て再現実験(というか)をしている場面から引用。まだ4月だというのに呆けていたり、さぼることばかり考えていたり、なんていうか、気合いの足りない受験生だな。大丈夫だろうか、来年の入試は? ま、心配するだけ損か。いちばん下、予備校ではなくて夜の勉強がさぼれているのだからそれでいいのでは? ちなみに、長男らしいです。2階の自分の部屋は6畳らしい(どうでもいいか(汗))。そういえば、最初に森江が訪ねたときに平日の昼間から家にいた理由が書かれていない(予備校はふつうにさぼったのか?)。
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文章について少し具体的に言ったほうがいいかな。例えば最初の文(「プロローグ」の冒頭)は、
<灰色の都市に架け渡された灰色の橋の真下に、輝くような純白の船が差しかかろうとしていた。>(p.7)
となっている。これを音読すると私は必ずどこかでつっかえてしまうのだけれど、それはなぜ? うーん…。「灰色」という言葉の繰り返し、「灰色の橋」の「は」の繰り返し(頭韻)、「架け渡された」「輝くような」「差しかかろうと」の「かk」または「かg」の繰り返し(これも頭韻)――表現効果を考えているとはとても思えない、テキトーな書きぶり? そうでもないか(わからない)。改行されて続く2文目は、<川は満々と青黒い水をたたえて流れ、(略)>(同頁)となっているのだけれど、色彩的なイメージ的にも、灰色の背景に灰色の橋、その下に白い船、その船の下には青黒い川――現実でもそうなっているのかもしれないけれど、イメージを喚起させる言葉、として微妙な感じがしないでもない。とにかく、まだ読まれていない方は、冒頭だけでなくこのレベルの文章がずっと続くことを覚悟して読まないといけない。
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