南木佳士の小説を取りあげるのはこれで3度目。エッセイ集『医者という仕事』(朝日新聞社、1995/朝日文芸文庫、1997)の最後に掌篇小説・短篇小説があわせて3篇収録されていて、これはそのうちの最後のもの。長さ的に掌篇ではなくて、短篇かな、手もとの文庫本で36ページある。いちおう3人称で書かれている小説で、よく知らないけれど、「上田」というのは作者の本名をもじったものみたいです。

大学を卒業してから17年勤めた信州の病院をやめるにさいして、昔のことをあれこれ思い出している上田医師、42歳。特に病院に勤め始めた頃のこと(研修医時代のこと)が思い出されているのだけれど、ここで触れておきたいのは、あまり書かれていないけれど、いつものように浪人生がらみの話。3人の女性が出てくるのだけれど、そのうちの1人が(小学校ではなく)予備校のときに知り合った美智子(『ダイヤモンドダスト』所収「冬への順応」では「千絵子」、『冬物語』所収「ウサギ」では「清子」だったけれど、この小説では「美智子」)。数千人の生徒がいるのに(本当にそんなにいたのかな?)模擬テストの総合成績順で決まる席が、2学期も1学期と同じく上田の前だったことから親しく話すようになり、予備校の帰りに御茶ノ水の駅まで一緒に歩くようになったり。で、その子の言葉を励みにしてかなり勉強したらしいのだけれど、受験には失敗。彼女のほうは希望どおり東大の理科一類に。具体的には――「冬への順応」などと違って大学の名前も具体的に書かれているのだけれど、上田は予備校の進路相談で滑り込めると言われた東大の医学部から(美智子と交際を続けたいのと、でも、父親と継母と暮らしている家から離れたいのと、あと、2浪はしたくないのとで)1ランク下げて千葉大の医学部を受験。でも、そこには落ちて秋田大の医学部に入学する。

 <秋田と東京。二人の仲は万有引力の法則にのっとって、距離の二乗に比例して離れていった。>(p.186)

大学で天文学を専攻したいと美智子さんが言っていたからかもしれないけれど、↑これを最初に読んだときに比喩の意味がよくわからなかった。「万有引力の法則」ってどんなのだっけ?(常識ですか?)。あ、でも、文脈的に、距離が大きくなるほど引き合う力が弱くなるというか、ある程度離れてしまうと引き合わなくなる、みたいな感じか(←なんとなくあっている?)。

そう、「コンプレックス」という言葉が使われていて(p.186)思い出したけれど、以前読んだ何かの本に「二期校コンプレックス」という言葉が使われていて。「東大コンプレックス」という言葉(cf.井上ひさし『花石物語』)に合わせるなら「一期校コンプレックス」と言ったほうがいいかもしれないけれど、それはそれとして。どれくらい一般的に使われている(いた)言葉なのかな? 二期校に入れば(当たり前だけれど)周りもみんな二期校の学生なのだから、ふつう周囲に対して劣等感を感じることはないわけだね。あ、自分(だけ)はこいつらと違う、みたいな思い(間違った優越感?)はあるかもしれないけれど。

病院に勤め始めて1ヶ月くらいのとき、美智子(都立高校の物理教師)から電話がかかってくる。<「結婚しようかと思って。ただ、どうしてもあなたのことが胸のどこかにひっかかってるもんだから、一度会っておこうと思ったの」>(p.188)。経験がないのでわからないけれど、こういう女性って多いのかな? この小説、男性の願望が入っていそうな気もちょっとするけれど。独身寮の部屋に出入りして上田の世話を焼いてくれる歳上の看護婦が出てくるのだけれど、こんなような女性も、いそうといえばいそうだし、いなそうといえばいなそうだし…。私にはよくわからんです。でも、この看護婦さん(詳しいことは読んでください)は結局、かわいそうだな、と思う。浅い感想で申し訳ないけれど(汗)。
 

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