副題というか、タイトルには片仮名で「ハートレス/ハートフル」と列記されている。MF文庫J、2009。表紙をめくるとインチキ発音記号が目に入ってくるし(違う意味でイタい)、最初のへん(p.15)に段落の頭が1文字下がっていないところがあるし…。イラストもあっていないな(ライトノベル、あっていると思えることのほうが珍しいけれど)。※以下、いつものようにネタバレにはご注意ください。←いちいち書いておかないとあとで文句を言われそうな気がするから。

予備校へ行く途中、駅のホームから線路に落ちた女性を助け、意識不明のまま入院中の兄・ゆずる。高校1年の弟・待中玲夫(まちなか・れお)は、兄がマスコミなどによって感動物語の主人公にされることに複雑な思いを抱いている。そんな玲夫の前に、ゆずるの中から「脱獄」してきたと言う、どうにか中学生に見えるくらいの1人の少女が現われる。玲夫は、兄の意識を回復させられるかもしれない「鍵」を探すために、同級生で小学校のころによく遊んだ飛沢蓉(とびさわ・よう)とともに、昔、3人で行った場所を訪れたりする。そして明らかになる6年前の過去――。空港(頻繁に空をゆく飛行機、緑と赤の点滅)、工場群(「鉄の森」、絶えないオレンジ色の炎)、海、運河・河口(暗く流れる川、堤防)といったどこか懐かしい(?)風景をもつ土地を舞台にhurtfulでhurtlessな物語が描かれている。……毎度、下手くそな内容紹介だな(涙)。

最初の少し=ゆずる目線のところは1人称(「おれ」)、あとはほとんど玲夫目線の3人称で書かれている――けれど、自由間接話法(描出話法)が自由に多すぎて、ほとんど1人称になっているような。「おれ」でも「玲夫(れお)」でも同じようなものかもしれないけれど。というか、最後のほうで「鉄の森」(=異界?)に入って自分と他者の境界がなくなっているので、文体がその伏線になっているような…。ただ、個人的には鉤括弧やダッシュの後ろが口に出して言っているのか頭の中だけで言っているのかわかりにくくて、それがちょっと嫌でした(涙)。

内容的には、全体的にこじんまりとまとまっている小説、かな。インターネットや携帯電話がある世界だけれど、閉じているといえば閉じているかもしれない。6年前に何があったのかわかってみても、しょぼいといえばしょぼいような…。ほかには――というか、今回はそれほど感想もないな(汗)。そう、読んでいるときに作者があまり若くないな、とはなんとなく思ったです(作者紹介のところに生年は書かれていないけれど)。漫画と同じでライトノベルって会話が読んでいて楽しい、みたいな印象があるのだけれど、この小説はふつうというか。別にそれがいけないというわけではないけれど、退屈は退屈かもしれない。キャラクター的には、不思議な女の子が現われるとか、同級生に丁寧語で話す女の子がいるとか、お約束は踏まえている感じ。そういえば、眼鏡率が高かったような。不思議な少女(玲夫が「脱子(だつこ)」と名付けている)以外の3人――ゆずる、玲夫、蓉は眼鏡をかけている。

そういえば、このお兄さんはどうして「夜の予備校」(p.12)に通っているのかな? 昼間は何をしているの?(わからない)。とりあえず、浪人している理由などは――引用させてもらうと、

 <(略)ロクに勉強しないで受験して当然浪人して、自業自得なのにふさぎこむような人間だった。>(p.29)

と、弟の目には映っている模様。要するに勉強不足か。ちなみにお父さんは地元で小さな町工場を経営しているらしい。

予備校生がホームで人を助けるということでは、清水義範『バードケージ』を思い出す…かな。浪人生が意識不明ということでは、庄司薫『ぼくの大好きな青髭』を思い出す。浪人生が冒頭で死亡する、あるいはすでに死亡している小説は多いと思うし(例えば予備校生の兄であれば、辻真先「村でいちばんの首吊りの木」)、浪人生が失踪している小説も読んだことがあるけれど(矢口敦子『家族の行方』)、死亡でも失踪でも意識不明でもだいたい同じというか。出来てしまった“空白”をほかの人が埋めていく話になったりする。
 

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