同名書(新潮社、2006/新潮文庫、2009)所収、9篇中の3篇目。※以下、おもいっきりネタバレをしているので、まだ読まれていない方はご注意ください。

 <失業中サラリーマンの恵太が引っ越した先は、家賃3万3千円の超お得な格安アパート。しかし一日目の夜玄関脇の押入れから「出て」きたのは、自称明治39年生まれの14歳、推定身長130cm後半の、かわいらしい女の子だった(表題作「押入れのちよ」)。ままならない世の中で、必死に生きざるをえない人間(と幽霊)の可笑しみや哀しみを見事に描いた、全9夜からなる傑作短編集。>(文庫カバーより)

細かいずれはともかく、固有名詞を少し足しておけば、恵太の苗字は「多村」、ちよのそれは「川上」。アパートではなくて一応マンションなのだけれど、「近藤不動産」から紹介された『月が丘マンション』(築35年)。内容はというか、この幽霊は、ジェントル・ゴーストというより“お茶の間幽霊”? ビーフジャーキーを食べてカルピスを飲み、テレビで『くいずみりおん』(活動弁士曰く、はいなるあんさー?)を見たりする。着物(振袖)を着ていて日本人形のようで、押入れの中から現われたり、箪笥の上にのっていたりする…。可愛らしいといえば可愛らしいけれど。でも、幽霊になるまでには聞くに堪えないつらい話があったりする。(単純には比べられないけれど、可愛らしい幽霊ということでは、川上弘美の連作短篇集『神様』に出てくるコスミスミコが個人的にはいまだにベストかな。)

マンションは3階建てで各階に3部屋ずつあって、恵太が入居するのは302。隣の301にはアジア系外国人がいる(「ヨマンさんとその十一人の仲間」)。――「住めば都はるみ」って、日本人に教わったのではなく、デーブ・スペクターみたいな、日本語のできるダジャレ好き外国人に教わったのでは?(汗)。反対隣の303には――最初に引越しそばならぬ引越しタオルを持って行ったとき、

 <出てきたのは恵太より少し年上に見える男だ。不健康そうな生白い顔に度の強い眼鏡をかけている。ドアをほんの数センチしか開けようとしないが、背が低く、三○二と同じドアから奥まで見通せる細長い造りだったから、質素な勉強机と壁に貼られた美少女アニメのポスターと「早大入試まであと百五十日」と書かれた張り紙がのぞけた。どうやら年下らしい。>(p.90)

。1浪くらいでは済んでいなそうな浪人生という感じ? 夜中には突然の奇声やぶつぶつ言う声が聞こえたりするらしい。――それで、だいぶネタバレしてしまうけれど、恵太に見えたその男は(その男も)実は幽霊だった、みたいなことがわかる。個人的によくわからなかったのは、人を巻き込む形でガス爆発自殺をしたのは、いつなのか、ということ。「美少女アニメのポスター」が貼られているのだから、そんなに昔ではないのか。あ、その前にいまは、DVDや携帯電話(メールも)がある時代。恵太は<アポロの月面着陸の後に生まれた>(p.100)と書かれているけれど、「後」といってもだいぶ後かもしれない(いままだ28歳だから、1970年代前半というよりは後半か)。それはともかく、自殺した場所にそのまま居座っている(いた)のだから、いわゆる地縛霊? “浪人生登場小説”(そんなジャンルはないけれど)のサブジャンルとしては、“浪人生=アパートなどでのあやしい隣人もの”と“浪人生=受験ノイローゼ自殺もの”を足したような感じかもしれない。――まぁどうでもいいけれど(汗)。

そう、諺の知識に関して語り手と視点人物が乖離している箇所があるけれど(視点人物=恵太は諺をあまり知らないけれど、語り手は知っている、みたいな箇所)、私にはあまり意味があるようには思えない。こういうところは面白いのかな? うーん…。あと、気になったのは、ちよの生前のことがわかったあとでは、レンタルビデオの1本(『若妻うんぬん』)をちよが見たいと言うかな? とちょっと疑問には思った。あ、あれ、DVDではなくてビデオでいいんだっけ? ――いいのか。まだ現在ほどDVDが普及していない?
 

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