角川文庫、1987。作者の初めての書き下ろし長篇小説らしいけれど、単行本情報が書かれていない(文庫の書き下ろし?)。「ロマン」というか、詩的な小説? 全12節というか、12まで番号が振ってあって、まだそのうちの1までしか読んでいないけれど、これもいま取りあげておかないと一生、触れる機会がないかもしれないから。とりあえずということで。

H大医学部3年のとき。坂本朝夫は、同級生の曾我部直と同じアパートの2つ隣に住んでいたのだけれど、2人の間の部屋に歌手の卵で美人の小室佐知子(18歳)が引っ越してくる。――明らかに三角関係になりそうな予感が? 2人は抜けがけしないという協定を結んだりしている。朝夫と直(なお)が知り合ったのは、予備校。朝夫くんは一応“苦学浪人生”だったというか、父親が亡くなって(母親はもっと前に亡くなっている)、

 <部屋を借り、予備校の一年分の月謝を支払ってしまうと、朝夫の手元に残った金は、十か月分の生活費にみたなかった。大学に無事合格したときのことを考えれば、その全部を使いきってしまうわけにはいかなかった。/月々の部屋代を、そのなかから払うとして、これまでの三分の1の金で、食いつないでいかなくてはならないのだ。>(p.16)

という感じ。下を見ていけばきりがないけれど、苦学生としては比較的恵まれているほうかな(私の主観的にはそう)。それはともかく、「食欲」に負けた朝夫は、すすきののホストクラブで氷を砕くアルバイトをしている。2週間働いて4ヶ月暮らせるくらいのお金を得ている。って、そんなにもらえるのか。

予備校の数学の授業中、朝夫は直から、彼のところに引っ越してこないか、と誘われている。あとで一緒に住み始めてから、直は<「君に金のないのは、一ト目みたときから、俺にはわかった。(略)」>(p.35)と言っている。浪人生どうしであると(片方が大学生とかでないと)男2人の同居生活もけっこううまくいくものなのかな? やっぱり性格的なもの(2人の相性)にもよるか。それはともかく、苦学している友だちに対して、ふつうなかなかそこまでの提案はできないよね、うちに来いよ、みたいな。逆にいえばそこまでの覚悟がないと、苦学生に手を差し伸べようなことはしないほうがいい、ということかな?(わからないけれど)。どうやらこの直くんにしても、佐知子(の歌)にしても、朝夫にとっては否定を肯定に変える力があるらしい。

細かいところだけれど、その数学の授業をしている<講師は二人が志望する大学の助教授だった>(p.28)とのこと。2人はその先生から私語を注意されて、そのあと直が言い返したりしていて――まぁそれはそれとして。ちょっと古い小説を読んでいると、ほんとよく、大学教師が予備校でアルバイトをしているけれど、国公立大学の助教授(というか准教授)は、たぶんいま予備校でのアルバイトはできないよね?(あ、「H大」が国公立大学だとは書かれていなかったかな? 読み直さないとわからないけれど、たぶんH大=北海道大学でしょう?)。国公立大学でも、講師レベルならアルバイトをしてもいいのかもしれないけれど。(作中年はたぶん、書かれたのと同時代くらい。)
 

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