「探偵」には「ディック」とルビ。廣済堂出版、1992。『弔いの街』(『復活なきパレード』改題)、『消された依頼人』(『フリスコからの贈り物』改題)に続く「脱サラ探偵・柏木大介」シリーズの3作目。初出は『大阪新聞』1988年9月12日~1989年9月20日とのこと(奥付の前のページによる)。古本屋で手に入らず、いま手もとにあるのは図書館本。※以下、まだ読まれていない方はネタバレにはご注意ください。ひと言でいえば微妙かな…、この小説も。まだバブル経済が崩壊していない(バブル景気が終わっていない)ときに書かれたものだし、ある程度はしかたがないのかもしれないけれど。(というか、何が?)

季節は残暑、柏木大介調査センター(略して柏木事務所、JR中央線の中野駅近く)に宇野覚(さとる)という男が訪ねて来て、妻・美加の尾行を大介に依頼する、というところから話は始まる。大介には麻生知佐子という、彼の雇用主であり(夜、彼女の家で用心棒をしている)一応の探偵助手でもある少女がいる。「少女」というか、「代々木の予備校」に通う浪人生で、歳は18歳。で、その知佐子も手伝って、その尾行はすぐに終わるのだけれど――美加は仕事関係(推定)で外国人の男ポール・ティモシーと会っていたため、最近帰りが遅かったことがわかる――、その後、クライアントの宇野覚の死体が京都の琵琶湖疏水(そすい)で発見され、持っていた名刺から大介は警察(阿具根刑事たち)から疑われたりする。一方、友人の猪熊仁弁護士を通じて大介のもとに、脱サラした(というより首になった)ことがきっかけで離婚した(された)元妻・矩子(のりこ)から、会いたいという内容の手紙(文書)が届けられる。その元妻は町岡信夫という人と再婚して苗字が「町岡」に変わっていることなどもその文面からわかる。というか、こんなにあらすじを書く意味があるのかな?(涙)。

2人とも危険な目にはあっている。大介は自動車でひき逃げにあったり、それで痛めた後頭部をさらに「ヤーさん」に殴られたりしている。マ○ファナ好きのお嬢さん知佐子は、2度誘拐されて監禁されている。そう、長篇小説はあらすじを書くよりも登場人物表を作っておいたほうが、あとで読み返すときに便利だったりするけれど(そうでもない?)、えーと、だからほかに出てくるのは、大介とセッ○スをする関係であり、両親と姉夫婦を亡くしている知佐子の親権者である叔母の小池富久子(登場するのは1度だけか)、大介がひき逃げされたときの入院先・奈良の「S病院」の岡島医師と水石看護婦、その事件を取材に来てその後、協力者のような存在になっている「奈良新報」の社会部記者・小沼試郎、あとイソ弁(居候弁護士)である猪熊が勤めている「土持法律事務所」のスタッフ、原かすみ。……誰か重要なキャラを忘れている気もするけれど、まぁいいや(汗)。移動はけっこうしていて、東京と関西=京都、奈良、大阪、最後は鳥取にも飛んでいる。ただ、なんていうか全体的にロケーションがあまりよくないというか、ホテルとか小料理屋とか、建物(ビル)の中とか、主人公がそんなところばかり行くような小説かもしれない。

全体的に伏線はけっこう張られている小説で、そういう意味では(?)けっこう面白かったと思う。文体というか言葉遣いは、……いま思い出したのは読んでいる間、パトカーのことを「パト」、「パト」言っていたこと。最後まで慣れなかったです(涙)。約20年前に書かれたハード・ボイルド小説だから、そういうところは全部目をつぶってあげればいいのかもしれないけれど。そう、車つながりで、大介が乗っているぼろいカローラのことを「ボローラ」と言っているのは、個人的にはちょっとよかったかな。あ、そんな細かいこと以前に、知佐子の喋り方がカタカナまじり…。それも最後まで違和感がありっぱなしでした(涙)。例えば、文脈がないとわかりにくいかもしれないけれど、

 <「ウン、ワカルヨ」>(上段、p.16)
 <「こっちもいまからディナーの準備をしようと思ったところなんだナ」>(下段、p.16)
 <「バスが動いている時間デース」>(同上)

という感じ。短い返事とか文末くらいならまだ許せるけれど、それ以外のところもけっこうカタカナ書き。

あと(言葉というかなんというか)事務所の冷蔵庫にはいろいろな種類のビールが入っているらしいけれど、小料理屋とかでもビールの銘柄がいちいち出てきて、若干うっとおしかったです、個人的には。私はお酒をほとんど飲まないので。文体・言葉は関係ないけれど、大介はパイポを吸っている(いまなら電子タバコか)。小説の途中では、何も詰めていないパイプも加えていて、しかもひき逃げされたさいにそれが折れて、折れたまま加えていたりもする。なんていうか、格好をつけているのかいないのか、いずれにしてもほかの登場人物や読者にカッコよく思われたいのか思われたくないのか、私にはさっぱりわからない(これも古い小説だから?)。

いつものように浪人生のプロフィール的なことを――。知佐子は名門の「S女子高」卒らしい。エスカレーター式で上の大学に行けるのに(この人もいわゆる外部受験か)、なぜか(理由はシリーズの2冊目を読めばわかるのかもしれないけれど)浪人している。中野区の家(「ケヤキの家」)でひとり暮らしをしているけれど、遺産があるのでいまのところお金には困っていない模様(というか、お金があるせいで監禁されてゆすられている)。大介は知佐子に無料で英語と数学の家庭教師をしている。36歳、もと有名企業に勤めていたとはいえ、よく予備校生に勉強を教えられるなぁ。そう、探偵事務所がつぶれたら(…ではなくて歳を取ったらか)学習塾を始めたい、みたいなことも言っている。あ、おっと忘れていたけれど、作中にもう1人、浪人生が出てくる。うぶというか、まじめな予備校生。

 <「マリファナ、吸ったのがバレたら、受験できなくなりますか」/貞広勤は、一〇〇パーセント受験生だった。/「調べてみなければわからんが、ダマされたり強制的に吸わされた場合は、いいんじゃないか」>(下段、p.126)

「全力少年」という歌があったよね(スキマスイッチ)、「100パーセント受験生」か。知佐子とは……友達だったっけ? いちおう予備校で同じクラスで、同じ駅(中野駅)で降りるつながり。ネタバレしてしまうけれど、10月くらいから話がいっきに飛んでいて(浪人生が出てくる小説だ、と思っている者にとってはいい迷惑(涙)――そんなやつは私だけか(汗))、大介&知佐子がプチ合格祝いをしている場面に。ミッション系のJ大(の外国語学部)に受かっている。ちなみに、医学部志望らしい貞広くんは、2浪に突入とのこと。書き忘れていたけれど、作中年は1989年から翌年にかけて(9月から10月、話が飛んで4月)。

最後に文法的なことを少し。

 <ホワイ・アー・ユー・テイル・ミー?>

「~を尾行する」という意味で「テイル(tail)」が使えるとか使えないとか、使えてもそれはアメリカ英語だとか、ちゃんとした英語では<ホワイ・アー・ユー・オン・マイ・テイル?>だとか、の以前に「テイル(tail)」に-ingが付いていないことのほうが、私にはずっと気になる(cf. Why are you tailing me?)。あと、これも細かいことだけれど、

 <「彼にとっても、プラスになったはずです」/木暮は、先に帰った刑事のことを三人称でいった。(略)>(上段、p.254)

木暮が誰かは措いておいて「三人称」という箇所。先に帰った刑事は「白井」という名前だけれど、(「彼」ではなく)例えば「白井」と言っても、それは3人称だから。←何を言っているかわかります? 「三人称」ではなく「代名詞」(あるいは「人称代名詞」)にすれば、とりあえずおかしくはなくなるか(「木暮は、先に帰った刑事のことを代名詞で呼んだ」とか)。
 

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