中原みすず 『初恋』
2009年8月4日 読書
リトルモア、2002/新潮文庫、2008。ページ数がそれほどないし、ちょっともの足りない小説だったかな、個人的には。
<愛に見放されていた高校時代、みすずが安らげるのは、新宿の薄暗いジャズ喫茶だけだった。そこには仲間たちがいる。亮、テツ、タケシ、ヤス、ユカ。そして彼らと少し距離をおく、岸という東大生。ある日、みすずは岸に計画を打ち明けられる。権力に、頭脳で勝負したいというのだ――。三億円事件には少女の命がけの想いが刻み込まれていた。世紀を超えて読み継がれる、恋愛小説。>(文庫カバーより)
1968年12月に起こった、いわゆる三億円事件の犯人(の1人)は、高校3年生の少女だった、みたいな話。犯人だけでなく、奪われた三億円のゆくえについても、1つの回答が与えられている。小説的にはそれだけではなくて、人間関係の(?)サプライズのようなものもあるけれど、…そう、亮&岸以外のジャズ喫茶(“B”)の仲間たちをもう少し描いて欲しかったかな。宮崎あおい主演の映画版では、タケシが浪人生、という設定になっているの? 少なくとも小説ではよくわからない。「私」(中原みすず)が新宿にある“B”に出入りするようになった1966年6月の時点で、3、4ヶ月前に地方から上京してきて、最初に現われたときには高校の制服を着ていたそうだ。作家志望で、仲間たちの中では例外的に(早大生を偽ったりして)学生運動にも参加しているらしい。――仮に高校を卒業していれば、大学生ではないのだから、ま、「浪人生」という設定になるのもしかたがないか。(あ、この小説は別に浪人生が出てくるから読んだというわけではなくて、“三億円事件”とか“初恋”とか、以前よく読んでいたブログの人が好きそうな話だな、と思って。文庫化されたときに買ったまま積ん読状態だった本。)
「私」の境遇は、児童文学っぽいというか、世界子ども名作劇場(?)みたいな感じもある。幼いころに父親が亡くなって母親が家を出て行き、親戚じゅうをたらい回し。いま一緒に暮らしている家では、叔母さんが典型的な“継子いじめ”をしている、みたいな。地図が読めず、方向音痴というのも、女の子(少女)っぽいよね。そう、高校3年生の「私」は、三億円強奪の計画&実行のさなかでも、受験生で、“事件”を起こしたあと、早稲田大学を受験している。東大が入試を中止した年(『赤頭巾ちゃん~』の薫くんと同学年だな)で早稲田も受験が厳しくなっていたらしい。結果は――隠すほどでもないけれど、読んでもらえばいいかな。その前に、東大生の岸くんは、勉強も教えてあげればよかったのにね。「私」は塾にも通っていない模様(通わせてもらえない?)。
いちおうオートバイ小説でもある(白バイだけれど)。“女の自立譚”にはなっているかな? ま、なっているか(斎藤美奈子『文学的商品学』参照)。そう、最後に短歌が出てくる章(「章」というか番号のみ)があって、雰囲気はぜんぜん違うけれど、以前読んだ、俳句が出てくる水原佐保『青春俳句講座 初桜』(角川書店、2006)をちょっと思い出した。
<愛に見放されていた高校時代、みすずが安らげるのは、新宿の薄暗いジャズ喫茶だけだった。そこには仲間たちがいる。亮、テツ、タケシ、ヤス、ユカ。そして彼らと少し距離をおく、岸という東大生。ある日、みすずは岸に計画を打ち明けられる。権力に、頭脳で勝負したいというのだ――。三億円事件には少女の命がけの想いが刻み込まれていた。世紀を超えて読み継がれる、恋愛小説。>(文庫カバーより)
1968年12月に起こった、いわゆる三億円事件の犯人(の1人)は、高校3年生の少女だった、みたいな話。犯人だけでなく、奪われた三億円のゆくえについても、1つの回答が与えられている。小説的にはそれだけではなくて、人間関係の(?)サプライズのようなものもあるけれど、…そう、亮&岸以外のジャズ喫茶(“B”)の仲間たちをもう少し描いて欲しかったかな。宮崎あおい主演の映画版では、タケシが浪人生、という設定になっているの? 少なくとも小説ではよくわからない。「私」(中原みすず)が新宿にある“B”に出入りするようになった1966年6月の時点で、3、4ヶ月前に地方から上京してきて、最初に現われたときには高校の制服を着ていたそうだ。作家志望で、仲間たちの中では例外的に(早大生を偽ったりして)学生運動にも参加しているらしい。――仮に高校を卒業していれば、大学生ではないのだから、ま、「浪人生」という設定になるのもしかたがないか。(あ、この小説は別に浪人生が出てくるから読んだというわけではなくて、“三億円事件”とか“初恋”とか、以前よく読んでいたブログの人が好きそうな話だな、と思って。文庫化されたときに買ったまま積ん読状態だった本。)
「私」の境遇は、児童文学っぽいというか、世界子ども名作劇場(?)みたいな感じもある。幼いころに父親が亡くなって母親が家を出て行き、親戚じゅうをたらい回し。いま一緒に暮らしている家では、叔母さんが典型的な“継子いじめ”をしている、みたいな。地図が読めず、方向音痴というのも、女の子(少女)っぽいよね。そう、高校3年生の「私」は、三億円強奪の計画&実行のさなかでも、受験生で、“事件”を起こしたあと、早稲田大学を受験している。東大が入試を中止した年(『赤頭巾ちゃん~』の薫くんと同学年だな)で早稲田も受験が厳しくなっていたらしい。結果は――隠すほどでもないけれど、読んでもらえばいいかな。その前に、東大生の岸くんは、勉強も教えてあげればよかったのにね。「私」は塾にも通っていない模様(通わせてもらえない?)。
いちおうオートバイ小説でもある(白バイだけれど)。“女の自立譚”にはなっているかな? ま、なっているか(斎藤美奈子『文学的商品学』参照)。そう、最後に短歌が出てくる章(「章」というか番号のみ)があって、雰囲気はぜんぜん違うけれど、以前読んだ、俳句が出てくる水原佐保『青春俳句講座 初桜』(角川書店、2006)をちょっと思い出した。
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