向田邦子 『寺内貫太郎一家』
2009年8月4日 読書
サンケイ出版、1975/新潮文庫、1983。今風にいえばノベライズというか。私はTVドラマは見たことがないです。よくTV番組のなかで流される懐かしの(?)映像のような形では、何度か見たことがあるけれど。断片的に。
<(略)。口下手で怒りっぽいくせに涙もろい、日本の愛すべき“お父さん”とその家族をユーモアとペーソスで捉え、きめ細かな筆致で下町の人情を刻み、東京・谷中に暮す庶民の真情溢れる生活を描いた幻の処女長編小説。>(文庫カバーより)
お父さん、現在の目線でいえば“暴力お父さん”だけれど、そう、もっとドタバタしている話かと思ったら、意外とほろりとさせられる、というか、特に各はなし(全12章というか全12話というか)の最後のへんでしみじみとしてしまって。人情ばなし、というとちょっと違うと思うけれど。あと、季節感もあってよい感じです。
寺内家には、お父さんの貫太郎はもちろん、あと、お母さんの里子、姉の静江、弟の周平、お祖母さんのきんがいて、それに新しくお手伝いのミヨ子(相馬ミヨ子)もやってくる。――6人か。これもなんとなく見たことがある食事の場面(ドラマ)の印象から、もっと大人数のようなイメージがあったけれど、それほどでもないんだね。ほかには、お父さんが石工(いしく)というか、家が「寺内石材店」なので通ってくる石工の人たち(イワさん、タメ公など)も昼間はいたりする。あと、そう、お姉さん(静江)が治らない怪我で足を引きずっている、という設定も、断片的な映像からは知ることができなかったので、今回、読んでみてよかったというか。
山田太一『岸辺のアルバム』とは違って最初から浪人生(予備校生)の周平くん。3話目では、その周平の合格発表の一日が描かれている。家族はもちろんみんな心配したりしているのだけれど、本人には、大学の合否よりも気になることができて――すなわち、お姉さんの足の原因が自分にあるのではないか、みたいな考えに取り憑かれてしまう。小さい頃のことで記憶があいまい。ことの真相はともかく、大学は(ネタバレしてしまうけれど)結局落ちていて、2浪目に突入というか、まだ浪人生のまま。4話目では、勉強に集中するためにアパートを借りたい、と言い出している。これも結末は、…読んでもらうとして。ま、1人抜けてしまうと小説(/ドラマ)的に困ってしまうかもしれないし。そう、ちょっと意外だったのだけれど、(『岸辺のアルバム』とかとは違って)けっこう拳をあげてお父さんにはむかっている。
周平くん、マユミちゃんというガールフレンドもいるけれど、最後の12話目――「初恋」というタイトルが付いている――では、夏風邪に浮かされて(?)、夫との離婚の危機から寺内家に身を寄せにきた親戚の直子のことを好きになっている。「初恋」といえば歳上女性が定番? ツルゲーネフやな。恋の結末は言わずもがな、かな。そう、ちょっとページを戻して11話目の最初、のへんでは、周平は梅雨どきが苦手みたいな話で――少し引用しておけば、
<(略)朝から雲が重い。そのせいか、頭も重い。夏がそこまで来ているのに、カッと照らないでモタモタしている半端なところは、「浪人」に似ている。(略)>(p.240)
これは勉強しなくちゃな強迫観念(オブセッション)とはちょっと違うかな。もう少し軽い感じ? 上に続いて、庭に蝸牛(かたつむり)を見つけた周平は、
<「蝸牛枝に這い、すべて世は事もなし」/たしかイギリスの、ブラウニングの詩の一節だった……。>(同頁)
みたいなことを言っている(言っているのは括弧の中だけか。三人称小説)。けっこう知的な浪人生、というよりは、たまたま知っていただけか。あ、ギターを引くらしいから作詞・作曲とかもするのかな。
<(略)。口下手で怒りっぽいくせに涙もろい、日本の愛すべき“お父さん”とその家族をユーモアとペーソスで捉え、きめ細かな筆致で下町の人情を刻み、東京・谷中に暮す庶民の真情溢れる生活を描いた幻の処女長編小説。>(文庫カバーより)
お父さん、現在の目線でいえば“暴力お父さん”だけれど、そう、もっとドタバタしている話かと思ったら、意外とほろりとさせられる、というか、特に各はなし(全12章というか全12話というか)の最後のへんでしみじみとしてしまって。人情ばなし、というとちょっと違うと思うけれど。あと、季節感もあってよい感じです。
寺内家には、お父さんの貫太郎はもちろん、あと、お母さんの里子、姉の静江、弟の周平、お祖母さんのきんがいて、それに新しくお手伝いのミヨ子(相馬ミヨ子)もやってくる。――6人か。これもなんとなく見たことがある食事の場面(ドラマ)の印象から、もっと大人数のようなイメージがあったけれど、それほどでもないんだね。ほかには、お父さんが石工(いしく)というか、家が「寺内石材店」なので通ってくる石工の人たち(イワさん、タメ公など)も昼間はいたりする。あと、そう、お姉さん(静江)が治らない怪我で足を引きずっている、という設定も、断片的な映像からは知ることができなかったので、今回、読んでみてよかったというか。
山田太一『岸辺のアルバム』とは違って最初から浪人生(予備校生)の周平くん。3話目では、その周平の合格発表の一日が描かれている。家族はもちろんみんな心配したりしているのだけれど、本人には、大学の合否よりも気になることができて――すなわち、お姉さんの足の原因が自分にあるのではないか、みたいな考えに取り憑かれてしまう。小さい頃のことで記憶があいまい。ことの真相はともかく、大学は(ネタバレしてしまうけれど)結局落ちていて、2浪目に突入というか、まだ浪人生のまま。4話目では、勉強に集中するためにアパートを借りたい、と言い出している。これも結末は、…読んでもらうとして。ま、1人抜けてしまうと小説(/ドラマ)的に困ってしまうかもしれないし。そう、ちょっと意外だったのだけれど、(『岸辺のアルバム』とかとは違って)けっこう拳をあげてお父さんにはむかっている。
周平くん、マユミちゃんというガールフレンドもいるけれど、最後の12話目――「初恋」というタイトルが付いている――では、夏風邪に浮かされて(?)、夫との離婚の危機から寺内家に身を寄せにきた親戚の直子のことを好きになっている。「初恋」といえば歳上女性が定番? ツルゲーネフやな。恋の結末は言わずもがな、かな。そう、ちょっとページを戻して11話目の最初、のへんでは、周平は梅雨どきが苦手みたいな話で――少し引用しておけば、
<(略)朝から雲が重い。そのせいか、頭も重い。夏がそこまで来ているのに、カッと照らないでモタモタしている半端なところは、「浪人」に似ている。(略)>(p.240)
これは勉強しなくちゃな強迫観念(オブセッション)とはちょっと違うかな。もう少し軽い感じ? 上に続いて、庭に蝸牛(かたつむり)を見つけた周平は、
<「蝸牛枝に這い、すべて世は事もなし」/たしかイギリスの、ブラウニングの詩の一節だった……。>(同頁)
みたいなことを言っている(言っているのは括弧の中だけか。三人称小説)。けっこう知的な浪人生、というよりは、たまたま知っていただけか。あ、ギターを引くらしいから作詞・作曲とかもするのかな。
コメント