ねじめ正一 『出もどり家族』
2009年8月22日 読書
光文社、2002/光文社文庫、2004。けっこう面白かったです。ここ最近読んだものの中では、いちばん楽に、自然と最後まで読み通せる小説だった。自分(の頭の中)が庶民的にできているからなのか、なんなのか。
<五十歳とは、憂鬱な年齢である――。昔ながらの商店街で民芸店を営むネジメハジメは憂鬱の種を山ほど抱えていた。妻の実家は借金まみれ、将来が心配な子供たち、愛人問題etc.。泥沼に追討ちをかけるように、ネジメは交通事故まで起こしてしまう。しかし、被害者の風俗嬢との出会いが彼の人生を大きく動かすことに……。ねじめ正一が初めて挑んだ「私小説」の傑作!>(文庫カバーより)
この程度の小説を「私小説」と言っていたら、世の中「私小説」だらけになってしまうような? 「あとがき」(文庫版)で虚実半々、みたいなことを言っているけれど、フィクション度はもっと高いかもしれない。内容的には、ひと言でいえば“借金小説”かな。次々と見つかる奥さん(美奈子)の大阪の実家の借金問題だけでなく、ネジメは酒乱の愛人(木下チカコ、もともと中学校の元同級生)にもお金を貸して逃げられているし、彼氏の借金を返すために働いている風俗嬢(青木ジュン、ネジメの運転する車に飛び込んで自殺未遂)には……というか、内容を書きすぎている(汗)。
子どもは男女1人ずついるのだけれど、このケースで、男の子ではなく女の子が浪人生というのは、小説ではとても珍しいと思う。というか、私は今回、初めて読んだかもしれない。娘の夏美が浪人している理由は(お父さん目線では)体が大柄なわりに気が小さくて……引用したほうが早いか。
<そのくせ自信家のところもあって、高校の担任が勧めた推薦入学も滑り止めの受験もすべてことわった。ことわったあげく、やっぱり志望校に全部落ちて予備校通いが始まったわけだが、ネジメの見るところ、夏美には浪人生としての自覚が薄いようである。一浪して初志貫徹というより、次はいろいろ受験すればどこかに滑り込めるだろうと思っている節がある。(略)>(p.9)
現役受験失敗の…というか、浪人決定の理由は、要するに過信? 個々の大学に受からなかった理由も同じなのかな? 「浪人生としての自覚が薄い」というのは、なんとなく今風といえば今風かもしれない。昔の小説に出てくる浪人生でも、そういうタイプの人はかなり多いけれど。ちなみに一浪の結果というか、合否については(作中で時間は経過しているけれど)書かれていない。
“家族小説”としては、お父さんが不倫しているだけでなく、“娘が妊娠しているのではないか騒動”があるのも、お約束かもしれない。父親の愛人のキャラクターが、酒乱というか、それはけっこう面白く思ったけれど。そう、お父さんが息子に殴られてしまっているあたりも、お約束かな。みじめな気持ちになるよね。息子というか夏美の兄の鉄平は、売れていない俳優で、パチンコでお金を稼いだりしている。
あと、奥さんの両親(義理の両親)が借金のせいで、家(スポーツ用品店)を手放して上京してくるのだけれど、孫の2人(鉄平と夏美)がお祖父ちゃん、お祖母ちゃんに対して冷たい。ちゃんと(?)理由も書かれているから、納得できないこともないけれど。あ、書き忘れていたけれど、家と民芸店があるのは、東京の阿佐ヶ谷。
最後の屋久島での話は、吾妻ひでお『失踪日記』(漫画)をちょっと思い出した。
<五十歳とは、憂鬱な年齢である――。昔ながらの商店街で民芸店を営むネジメハジメは憂鬱の種を山ほど抱えていた。妻の実家は借金まみれ、将来が心配な子供たち、愛人問題etc.。泥沼に追討ちをかけるように、ネジメは交通事故まで起こしてしまう。しかし、被害者の風俗嬢との出会いが彼の人生を大きく動かすことに……。ねじめ正一が初めて挑んだ「私小説」の傑作!>(文庫カバーより)
この程度の小説を「私小説」と言っていたら、世の中「私小説」だらけになってしまうような? 「あとがき」(文庫版)で虚実半々、みたいなことを言っているけれど、フィクション度はもっと高いかもしれない。内容的には、ひと言でいえば“借金小説”かな。次々と見つかる奥さん(美奈子)の大阪の実家の借金問題だけでなく、ネジメは酒乱の愛人(木下チカコ、もともと中学校の元同級生)にもお金を貸して逃げられているし、彼氏の借金を返すために働いている風俗嬢(青木ジュン、ネジメの運転する車に飛び込んで自殺未遂)には……というか、内容を書きすぎている(汗)。
子どもは男女1人ずついるのだけれど、このケースで、男の子ではなく女の子が浪人生というのは、小説ではとても珍しいと思う。というか、私は今回、初めて読んだかもしれない。娘の夏美が浪人している理由は(お父さん目線では)体が大柄なわりに気が小さくて……引用したほうが早いか。
<そのくせ自信家のところもあって、高校の担任が勧めた推薦入学も滑り止めの受験もすべてことわった。ことわったあげく、やっぱり志望校に全部落ちて予備校通いが始まったわけだが、ネジメの見るところ、夏美には浪人生としての自覚が薄いようである。一浪して初志貫徹というより、次はいろいろ受験すればどこかに滑り込めるだろうと思っている節がある。(略)>(p.9)
現役受験失敗の…というか、浪人決定の理由は、要するに過信? 個々の大学に受からなかった理由も同じなのかな? 「浪人生としての自覚が薄い」というのは、なんとなく今風といえば今風かもしれない。昔の小説に出てくる浪人生でも、そういうタイプの人はかなり多いけれど。ちなみに一浪の結果というか、合否については(作中で時間は経過しているけれど)書かれていない。
“家族小説”としては、お父さんが不倫しているだけでなく、“娘が妊娠しているのではないか騒動”があるのも、お約束かもしれない。父親の愛人のキャラクターが、酒乱というか、それはけっこう面白く思ったけれど。そう、お父さんが息子に殴られてしまっているあたりも、お約束かな。みじめな気持ちになるよね。息子というか夏美の兄の鉄平は、売れていない俳優で、パチンコでお金を稼いだりしている。
あと、奥さんの両親(義理の両親)が借金のせいで、家(スポーツ用品店)を手放して上京してくるのだけれど、孫の2人(鉄平と夏美)がお祖父ちゃん、お祖母ちゃんに対して冷たい。ちゃんと(?)理由も書かれているから、納得できないこともないけれど。あ、書き忘れていたけれど、家と民芸店があるのは、東京の阿佐ヶ谷。
最後の屋久島での話は、吾妻ひでお『失踪日記』(漫画)をちょっと思い出した。
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