角川書店、1987/角川文庫、1990。つかこうへいの小説、初めて読んだけれど、けっこう面白かったです。筒井康隆とか伊井直行とかにちょっと似ているかな。いろいろな人が出てきて、筋が通っているようないないようなことを言ってくる、みたいな。この小説も、ひと言でいえば“家族小説”かな。ある意味では“お金小説”とも言えるけれど。(そう、弟の裏口入学にではなく「私」の芥川賞ゲットに対してお金を使っていたら、筒井康隆の『大いなる助走』みたいになっていたかもしれない。地方の飲み屋に集まる同人誌仲間たちもちらっと出てくるし。)

小説家として成功できずにいる「私」(=森田一郎、31歳、私大文学部卒)は、両親が勧める、というより家が農協に借金をしていて断れないお見合いを口実に、東京で同棲中の恋人(水野レイ子、スチュワーデス、30歳前)を残し、5年ぶりに愛知県は鳳来村(ほうらいちょう)に帰郷する。地元一帯、その中でも特に森田家は、ウナギの養殖で当たった“ウナギ成金”。家に帰ると、父親に反抗している弟(サトル、28歳)が養殖池に向かって散弾銃(!)をぶっ放したりしている。弟は歯医者の卵で、“コネ”(裏口入学)で入学した大学(豊橋医科歯科大学)に通う5年生。「私」のきょうだいには、ほかに高校生で新聞部に所属する妹の由紀がいる。家にはあと、森田家をウナギの養殖で成功させた功労者で、「私」の小説のよき理解者である善太郎さん(京大卒、51歳)という使用人がいる。ほかに重要な人物としては……別に全員書き出さなくてもいいか。おおざっぱに言っておけば、レイ子の元旦那の持田さんと2人の子どもの敬介君や、弟もお見合いをするのだけれど、2人のお見合い相手やその家族、妹が付き合っている相手、「私」や弟の元同級生なども出てくる。

弟が4浪してコネ入学にいたる経緯は、……ぜんぶ引用するわけにはいかないか(汗)。まず、歯医者で話を聞いたことがきっかけで、お父さんが子どもたちの誰かを歯医者にしようと思って、家族の前でそう口にする。当時、「私」は高校3年で、弟のサトルは高校1年、妹はまだ小さい。お父さんは頭がいい「私」に期待していたけれど、「私」は自分にはほかにやりたいこと(小説家になりたい)があるから、という理由で逃げ続けるというか、理不尽な父親と対立し続ける。で、それを見かねた、兄よりもずっと成績がよくない弟が、自分が歯医者になる、と言い出す。

 <弟は家庭教師を五人もつけて必死に勉強した。/現役不合格。これには口をはさむものは誰もいなかった。浪人一年、二年、このまま一生浪人をつづけるんじゃないかと、誰の胸にも不安が先になった。>(pp.58-9、文庫)

家庭教師5人か…、私立の歯学部でもいいだろうに、高校1年から勉強して浪人1、2年でも受からないのか(うーん…)。浪人3年目は、お父さんは、弟の高校のときの担任・川口先生(鳳来寺の住職でもある)から、コネを探すしかない、みたいなことを言われ、「名古屋医科歯科大の卒業生の増田という男」(p.59)に頼んだけれど、あえなく失敗する(たんなる「卒業生」なら頼んでも意味はないよな、やっぱり)。浪人4年目は、代議士(「私」が当時から付き合っていたスチュワーデスのレイ子、の同僚の父親)に頼んで、結局、3000万円を支払って新設の大学に合格。――「相場は一点が百万円らしい」(p.64)って本当かな? ま、いくらでもいいか(汗)。こんなところも小説(というか漫画)っぽいかと思う、

 <(略)密約をもらい、弟は安心したのか、おかしなもので、そのときから一心不乱に受験勉強を始めた。そのすさまじいエネルギーに、弟は日に日に頬がこけ、目はおちくぼみ、ともかくもと受けてみた他の二つの歯学部の模擬テストでも合格ラインに入り、寄付金の打診を受けたほどだった。>(p.64)

要するに弟は(あとで)裏口入学をしてしまうけれど、実力+寄付金でほかの歯学部に入れたかもしれないし、お金を払って入った大学にしても(お金は取られたけれども)実は実力で合格点に達していた可能性もある。

裏口入学を扱ったほかの小説(あまり読んだことがないけれど)といちばん違うのは、父親が(弟自身も)コネ探しに奔走していたので、近所じゅうが弟が大学にコネで入学したのを知っている、という点かもしれない。噂とかではなくてはっきりと知っているという…。「私」と妹は一応、常識がある感じ。合格祝いの席に現われた、弟のコネ入学を祝う川口先生に対して、妹(当時は中学生かな)は、

 <「先生! あなたは教育者として恥ずかしくないのですか?」>(p.70)

と叫んでいる。先生はそそくさと帰る、みたいな。あるいは小説の後半で、妹は高校の新聞部に弟を招いて、自分がコネで大学に入学して歯医者になることをどう思うか、と詰問したりしている。で、新聞部の面々は(読者もか)コネ入学した学生のほうがそうでない学生よりよく勉強する、などと、正直に話す弟の側にも、一理あることを認めざるを得ない感じになっている。“元受験生小説”としては読みどころの1つかもしれない。

妹といえば、“妹が妊娠しているのではないか”みたいな話があるのも、“家族小説”の定番の1つかもしれない。そう、関係ないけれど、お父さんは何歳だっけ? ――見つからないな(涙)。お母さんは56歳か。弟が4浪目である5年前は、単純計算で51歳か。弟の浪人中(1~4浪)は、両親とも50歳前後という感じ? この小説では上にお兄さんが1人いるけれど、それくらいの年齢がふつうなのかな、浪人生の親は。(浪人がらみの話では、あと、弟の元同級生の村瀬孝太郎という人が出てくるけれど、…まぁいいか、省略です。)
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索